浮気調査を依頼した敏腕弁護士が、傷心の私を溺愛して離してくれません
「仕事が忙しく、気づけなかった」

敬さんは淡々と続ける。

「……いえ。本当は違和感を見ないふりをしていただけです」

その言葉に、胸が痛んだ。

私と同じだったから。

信じたくて、気づかないふりをしていた。

敬さんは静かに笑う。

でもその笑顔は、少し苦しそうだった。

「だから分かったんです」

低い声が落ちる。

「あなたが、どれだけ苦しかったか」

私は視線を落とした。

敬さんも、同じ痛みを知っていたんだ。

だからあの日、私の涙を見てあんな顔をした。

すると敬さんがソファから立ち上がり、ゆっくり私の隣へ座る。

近い距離。

大きな手が、そっと私の髪へ触れる。

「あなたの涙だけは、見過ごせなかった」

その声は、とても優しかった。

私は胸が熱くなる。

敬さんは、自分の傷を知っているからこそ、私をこんなにも大切にしてくれる。
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