激情に目覚めた冷徹外科医は契約妻を蕩けるほどの愛で搦めとる
 あれから、指摘された仕事はどうにかリカバーした。
 定時を迎えても書類作成などの作業が山積みで、着替えを終えたのは午後七時前。
 へとへとになりながら従業員玄関へ向かう道すがら、今日起きた失態を思いだしては猛省する。
 皆藤さんの件が発端で、仕事でもミスをして……。私の事情は患者さんには一切関係のないことなのに。
「はあ……」
 大きなため息をこぼし、とぼとぼと自動ドアに向かう。
 なにげなく外に目を向けると、車寄せの柱の陰に皆藤さんの姿を見つけた。
 瞬間、足が石になったように一歩も動けなくなる。
 ここ数日で、確実にエスカレートしてきている。どうしよう、怖い。
「またお前か」
 そこに、背後からぶっきらぼうな声がしてようやく身体が動いた。
 月舘先生だ。
「あ……お、お疲れさまです……」
 私の声は絶対に聞こえているはず。なのに、月舘先生はなにも言わない。
 そこで、はっと気づく。
 よくよく考えたら、今日のミスは月舘先生が担当している患者さんだ。私の失態に怒っているから、無言で圧をかけているのかも。
 途端に居た堪(たま)れなくなり、思わず俯く。
 月舘先生はおもむろに近づいてきて、口を開く。
「単刀直入に聞く。あの男につきまとわれてるのか?」
 言い当てられたことも、それが月舘先生ということも、予想外すぎてすぐには反応できなかった。
 だけど、この機会を逃せば、私はまたひとりきりで怯え続けるかもしれないと考えたら、自然と言葉が出る。
「助けてください……! 職場もSNSも、自宅も知られていて……!」
 月舘先生は、「はあ」と息を吐く。
「警察には?」
 月舘先生は厳しい人だから、つきまとわれていたのにもかかわらずなにも対策をしていない、なんて答えづらい。とはいえ、嘘も言えない。
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