激情に目覚めた冷徹外科医は契約妻を蕩けるほどの愛で搦めとる
「ここで待つ。あの男を見かけたら連絡するから、そのときは待機してろ」
「は、はい。わかりました」
 私は皆藤さんが近くにいないのを確認して、自宅アパートに入った。
 月舘先生とはさっき連絡先を交換した。
 部屋に着いてまずエアコンをつけ、クローゼットからスーツケースを引っ張り出す。
 大変なことになった……。月舘先生と何日か一緒に暮らす……ってことだよね。え……本当に大丈夫なの?
 改めて今の状況を確認し、右往左往する。
「ええ……どうしよう……」
 考えごとに気がいって、準備の手が止まる。
 心配なのは自分の身の危険ではなく、月舘先生のほう。
 誰が聞いたって、彼が面倒に巻き込まれている状況だ。なんのメリットもないうえ、もしも院内で変な噂にでもなったら……申し訳なさすぎて職場にいられないかも。
 やっぱり遠慮したほうが……。でも正直言って、今の状況下で誰かのもとにいられるのは安心する。ましてそれが事情を知っている信頼できる男性なら、なおさら。
 気持ちが揺らいでいたそのとき、エアコンの風であの手紙が足元に落ちてきた。
 二度と見たくもない、気味の悪い手紙だ。
 ここにいたら、接触を避けたところでこういう間接的な出来事は続くかもしれない。
 ちょっと今……そんなことが続けば精神的に参ってしまいそう。
 少しの間だけ。気持ちを立て直せば、ひとりでもどうにか対処していけるかもしれないから、短期間お言葉に甘えよう。
 掛け時計を見て、急いで準備を進めた。その後、アパート前に出ると、月舘先生は車から降りて待機していた。
「すみません。お待たせしました」
「貸して。で、早く乗って。あの男に見られたら面倒になる」
「はい」
 彼は私のスーツケースを手に取り、トランクへと積み込む。その間に、私は急いで車に乗り込んだ。

 月舘先生の自宅マンションを車の窓から見上げた途端、圧倒される。
「す……すご……」
 首が痛くなるほど高くて、感覚では二十階くらいはありそうだ。
 車専用の門は自動で開くシステムになっているらしく、門をくぐり抜けると地下駐車場へと向かっていく。
「初めてです、こんな立派なマンションに入るの……」
「ここなら、セキュリティ面は問題ないだろ?」
「うちのアパートとは比べものにならないです……。ですが、この場所が皆藤さんにバレないように十分注意を払うつもりです」
 定位置であろう場所に車を止め、月舘先生はトランクからスーツケースを出す。
「バレるバレないは別にいいけど、注意はするに越したことはないな」
 皆藤さんは神出鬼没だ。私が油断すれば、この場所だけでなく月舘先生の自宅ということも知られるかも……。
 私は荷物を受け取り、改めて気を引きしめ直す。
「いいえ。これ以上のご迷惑は絶対におかけできませんので、知られるわけにはいきません」
 月舘先生は「あ、そう」と素っ気ない反応をして、マンション内へ続く出入り口へ歩きだした。
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