激情に目覚めた冷徹外科医は契約妻を蕩けるほどの愛で搦めとる
 入口横に設置されているリーダー部分にカードキーをかざすと、ドアが自動で開いた。後ろにいた私は彼に促され、先に中へと通される。マンションの中へ足を踏み入れた瞬間、思わず感嘆の息が漏れた。
 高級ホテルみたいな印象だ。足元の絨毯の質感とか、飾られている花とか、それを照らす間接照明とか。
 およそ住宅とは思えない雰囲気で圧倒された。
「エレベーターは低層階用と高層階用で分かれてるから」
「はい。わかりました」
 さながら業務連絡を聞くかのように、堅苦しく返事をする。
 だって、緊張もする。月舘先生のおうちというのもそうだけど、こんなラグジュアリーなマンションなんて、これまで縁がなかったもの。
 エレベーターに乗り込んだあと、月舘先生は説明を続ける。
「コンシェルジュとまではいかないが、二十四時間有人管理システムのある住宅だから安心だと思う」
「二十四時間も?」
 有人なら、必ず誰かはいてくれるということだ。それは今、私が置かれている状況からすると、とても助かるし安心できる。有人管理人はおろか、防犯カメラさえなかったうちのアパートとは天と地の差だ。
 あっという間に最上階の二十一階に到着し、エレベーターを降りる。
 月舘先生はエレベーターホールから廊下に出たのち、数十メートル先の玄関前で足を止めた。
 カードキーは、さっき駐車場からロビーに向かう際にも使っていたものと同じ。
 月舘先生は玄関のドアを開け、こちらを見る。
「早く」
「あっ、お邪魔します!」
 私を先に行かせるためにドアを開けてくれていたとは思わず、慌てて中に入った。
 一歩中に足を踏み入れると、そこは〝月舘先生の家〟という感じだ。
 黒の大理石風の玄関土間と、土間の床から天井まで壁一面の黒のシューズボックス。廊下は白色の床材で、モノトーンで洗練された雰囲気だった。
 彼はドアを閉め、玄関の飾り棚に置いてある銀色のトレーにキーをのせた。
 ふと私もそちらに目を向けると、葉っぱを模った真鍮のトレーが置いてあった。
「素敵なトレーですね」
「そうか? ほら、ざっと説明しておくから上がって」
 月舘先生は素っ気ない返答をしながらも、スリッパを出してくれた。
 私は会釈をし、靴を脱いでスリッパを履く。靴を揃えて顔を上げると、月舘先生は私のスーツケースを手にしていた。
「あ、自分で――」
「いいから」
 言葉尻にかぶせて拒否され、申し訳ない気持ちになる。それでなくてもだいぶ迷惑をかけているのに、荷物まで運ばせてしまうなんて。
 だけど、よくよく考えたらこんな立派なマンションの壁や床に傷をつけたら大変だ。ここはおとなしくお言葉に甘えたほうが無難かも。
「すみません。お願いします」
 私があれこれ考えている間にも、彼はすでに廊下を歩きだしていた。
 私は彼のあとを粛々とついていく。
「ここがトイレ、それから洗面所とバスルーム、これはサービスルーム」
 月舘先生は、玄関に近いドアから順に説明してくれた。
「ここがリビングとダイニング」
 彼は廊下の左側にあるドアを手で示しながら言うと、さらに続ける。
「で、奥のドアが寝室、その手前が書斎」
 そう言われて、右側にある三つのドアに視線を移し、奥からひとつずつ確認する。
「奥が寝室で、真ん中が書斎で、その隣が──」
「私室だ。ここは開けるな」
 月舘先生は、私のひとりごとに素早く反応して釘を刺した。
 もちろん、勝手に入ろうだなんて気はさらさらない私は、背筋を伸ばして答える。
「はい、わかりました」
 次に彼が向かった先は寝室だ。
 月舘先生が先導して室内に入る。寝室もまた広くて、思わずぽかんと口を開けてしまった。
 これは、もしかしたら私のワンルームのアパートよりも広いんじゃ……。
「あー、そうだ。特に抵抗ないならベッド使って。シーツは今朝新しく変えたばかりだからいいだろ」
「さすがにこれ以上は申し訳なさすぎます。リビングの隅とかを……少し使わせてもらう形でどうでしょうか」
「それは無理。リビングにはもう住人がいるから」
「住人?」
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