激情に目覚めた冷徹外科医は契約妻を蕩けるほどの愛で搦めとる
え……。月舘先生はまだ結婚はしていなかったはず。だったら、恋人? でも、恋人が〝リビングの住人〟っていうのもおかしな表現……。そもそも、そういう相手がいるなら、私を連れてきたりはしないだろうし。
疑問が頭の中をぐるぐるしている間に、月舘先生は私の荷物を置いて寝室を出ようとする。
「書斎にもソファベッドを置いてあるし、職場の仮眠室も使ったりしてるから」
足元に視線を落としながら、月舘先生に続いて寝室をあとにする。
月舘先生はああ言ってくれているけれど、私がいる間ずっとそのどちらかでしか寝られないっていうのは心苦しい。
ひとり悶々と考え込んでいると、月舘先生がこちらを振り返る。
「おい。申し訳ないと思うなら、さっさとここにいる間に行動しろ。一日も早く、生活の基盤を立て直せ」
「はっ、はい!」
まるで心の声を見透かされたようなタイミングでびっくりした。
月舘先生が洞察力に優れているのは仕事でわかっていたけれど、プライベートでもそこは変わらないんだ。
彼がリビングに入ったのを見て、私も「失礼します」とつぶやいてあとに続く。
入った瞬間、ぱっと視界が開けてその広さに驚いた。
左奥にアイランドキッチンがあり、その横に四人用のダイニングテーブルが置かれている。リビング・ダイニング合わせて三十畳はありそうだ。L字ソファも、壁付けされたテレビも大きくて圧倒される。
そして、大きな窓のそばには、私よりも背が高い観葉植物も置かれている。玄関や寝室などの無機質な印象とは違って、緑のおかげで柔らかな雰囲気で落ちつく。
こんな立派なマンションには誰でも住めるものじゃない。月舘先生クラスの外科医ともなると、やっぱりこれが普通なのかな。
部屋の隅で驚嘆していたら、月舘先生が窓側のソファへ移動する。しかし、腰を下ろすでもなく、ソファの後ろに回った。
カーテンを閉めるのかな?と思ったら、彼は急に膝を折る。
「えっ」
私は月舘先生が急に体調不良にでもなったのかと思い、慌てて彼のもとへ駆け寄った。すると、彼の前に大きめのケージが置いてあるのがわかった。
どうやら、その中を覗き込むために膝をついたらしい。
私はそのケージを見て、ピンとくる。
「もしかして……『住人』とおっしゃっていたのは動物ですか?」
月舘先生の背中にぽつりと問いかけた。
私は窓間壁の下部に置かれているケージ内を、そろりと観察する。
猫……にしてはケージが小さい。鳥かな? いやでも、中に滑車がある。ハムスターとか、ウサギとか?
月舘先生の身体越しにさらに覗き込んだら、巣箱から一匹のリスが出てきた。
直後、月舘先生が口を開く。
「ただいま、ネーベン」
「ネ、ネーベン?」
それは〝研修医〟を意味する言葉だ。
その子の名前……ってことだよね? ネーミングセンスがちょっと変わってる。
名前の由来が気になったものの、月舘先生に対してプライベートでの質問をしたことがないから、なんだかためらってしまった。
ネーベンと呼ばれたリスは、月舘先生の近くまでやってきて、ちょこんと座る。
「か……可愛い~!」
黒い瞳がくりっとしていて、愛らしい。月舘先生が帰ってきたから寄ってきたのだと思うと、なおさら可愛く思えた。
「しっ。初めて会う人間が大きな声を出すと警戒心が強まる」
鋭い目を向けられ、私は咄嗟に両手で自分の口を覆った。
「……すみません」
小声で謝り、静かにその場から離れる。
遠目にケージを見ながら、引き続き小さな声で尋ねた。
「シマリスですか?」
「ああ。リビングは基本的にこいつを優先して生活している」
月舘先生はそう言って、ケージの中に手を入れた。
リスは警戒する素振りも見せず、手のひらにのって首をきょろきょろと動かしている。
その動きを見た私は、また『可愛い』と声を出したくなったのをグッと堪える。
「随分人馴れしているんですね。そんなふうに懐かれたら、いっそう可愛いんじゃないですか?」
「……まあ」
自分で聞いておいて、ちょっと驚いた。
月舘先生も、〝可愛い〟という感情を持っているんだ。職場では堅物な印象が強いから。そもそも、飼っているペットがリスっていうのが意外すぎて。心なしか、斜め後ろから見える月舘先生の表情が緩んでいるような……。
予想外の姿を目の当たりにして固まる。
すると、彼は私の視線に気づいたのか、すっと立ち上がった。
疑問が頭の中をぐるぐるしている間に、月舘先生は私の荷物を置いて寝室を出ようとする。
「書斎にもソファベッドを置いてあるし、職場の仮眠室も使ったりしてるから」
足元に視線を落としながら、月舘先生に続いて寝室をあとにする。
月舘先生はああ言ってくれているけれど、私がいる間ずっとそのどちらかでしか寝られないっていうのは心苦しい。
ひとり悶々と考え込んでいると、月舘先生がこちらを振り返る。
「おい。申し訳ないと思うなら、さっさとここにいる間に行動しろ。一日も早く、生活の基盤を立て直せ」
「はっ、はい!」
まるで心の声を見透かされたようなタイミングでびっくりした。
月舘先生が洞察力に優れているのは仕事でわかっていたけれど、プライベートでもそこは変わらないんだ。
彼がリビングに入ったのを見て、私も「失礼します」とつぶやいてあとに続く。
入った瞬間、ぱっと視界が開けてその広さに驚いた。
左奥にアイランドキッチンがあり、その横に四人用のダイニングテーブルが置かれている。リビング・ダイニング合わせて三十畳はありそうだ。L字ソファも、壁付けされたテレビも大きくて圧倒される。
そして、大きな窓のそばには、私よりも背が高い観葉植物も置かれている。玄関や寝室などの無機質な印象とは違って、緑のおかげで柔らかな雰囲気で落ちつく。
こんな立派なマンションには誰でも住めるものじゃない。月舘先生クラスの外科医ともなると、やっぱりこれが普通なのかな。
部屋の隅で驚嘆していたら、月舘先生が窓側のソファへ移動する。しかし、腰を下ろすでもなく、ソファの後ろに回った。
カーテンを閉めるのかな?と思ったら、彼は急に膝を折る。
「えっ」
私は月舘先生が急に体調不良にでもなったのかと思い、慌てて彼のもとへ駆け寄った。すると、彼の前に大きめのケージが置いてあるのがわかった。
どうやら、その中を覗き込むために膝をついたらしい。
私はそのケージを見て、ピンとくる。
「もしかして……『住人』とおっしゃっていたのは動物ですか?」
月舘先生の背中にぽつりと問いかけた。
私は窓間壁の下部に置かれているケージ内を、そろりと観察する。
猫……にしてはケージが小さい。鳥かな? いやでも、中に滑車がある。ハムスターとか、ウサギとか?
月舘先生の身体越しにさらに覗き込んだら、巣箱から一匹のリスが出てきた。
直後、月舘先生が口を開く。
「ただいま、ネーベン」
「ネ、ネーベン?」
それは〝研修医〟を意味する言葉だ。
その子の名前……ってことだよね? ネーミングセンスがちょっと変わってる。
名前の由来が気になったものの、月舘先生に対してプライベートでの質問をしたことがないから、なんだかためらってしまった。
ネーベンと呼ばれたリスは、月舘先生の近くまでやってきて、ちょこんと座る。
「か……可愛い~!」
黒い瞳がくりっとしていて、愛らしい。月舘先生が帰ってきたから寄ってきたのだと思うと、なおさら可愛く思えた。
「しっ。初めて会う人間が大きな声を出すと警戒心が強まる」
鋭い目を向けられ、私は咄嗟に両手で自分の口を覆った。
「……すみません」
小声で謝り、静かにその場から離れる。
遠目にケージを見ながら、引き続き小さな声で尋ねた。
「シマリスですか?」
「ああ。リビングは基本的にこいつを優先して生活している」
月舘先生はそう言って、ケージの中に手を入れた。
リスは警戒する素振りも見せず、手のひらにのって首をきょろきょろと動かしている。
その動きを見た私は、また『可愛い』と声を出したくなったのをグッと堪える。
「随分人馴れしているんですね。そんなふうに懐かれたら、いっそう可愛いんじゃないですか?」
「……まあ」
自分で聞いておいて、ちょっと驚いた。
月舘先生も、〝可愛い〟という感情を持っているんだ。職場では堅物な印象が強いから。そもそも、飼っているペットがリスっていうのが意外すぎて。心なしか、斜め後ろから見える月舘先生の表情が緩んでいるような……。
予想外の姿を目の当たりにして固まる。
すると、彼は私の視線に気づいたのか、すっと立ち上がった。