激情に目覚めた冷徹外科医は契約妻を蕩けるほどの愛で搦めとる
昨夜は考えれば考えるほど悪い方向に陥って、なかなか寝つけなかった。
それなのに今朝はいつもより早く目覚めてしまい、胸がぞわぞわする。
先月不運にも遭遇して以降、ぱたりと姿を見せないから、少し警戒心も薄れていたところに昨日の出来事で打ちのめされている。
職場に着いてもなおモヤモヤした気持ちは変わらず、気づけば昼になっていた。
今日は無駄に早起きしたから、お弁当を作って持ってきていた。
飲み物だけを売店で買い、廊下を引き返して数分後。
外来の患者さんもほとんどいない廊下で佇む人影には、否が応にも目がいく。
そして、そのスーツ姿の男性が皆藤さんだとわかるなり、自分でも驚くほどの動(どう)悸(き)に襲われた。
「あ、いた。有津さん」
笑顔でさわやかに手を振られても、私にとっては恐怖でしかない。
いつから? どうしてここに? なんのために?
『いた』という発言からして、私がここにいることを知っていたとしか思えない。いったいどうやって……。
人間、想像を超える出来事に見舞われると、声も出なければ足も動かないらしい。
そんなこと、身をもって知りたくなんかなかった。
皆藤さんは笑顔を貼りつけたまま、こちらに歩みを進める。
「あれ? なんか大丈夫? 汗がすごいね。待って。僕、ハンカチ持ってるから」
皆藤さんの指摘通り、手もじっとり汗ばむ感覚はあった。
恐怖と混乱が相まって、無意識に後ずさりをする。
目の前の彼がゆっくりと、でも着実に私との距離を詰めてくる。耐えきれなくなって思わず勢いよく身体を翻して駆け出そうとした。
次の瞬間。
「きゃっ」
下ばかり向いて視野が狭くなっていたため、前方をちゃんと見ていなかった。
誰かに勢いよくぶつかった反動で、私は尻もちをつく。
「痛ってえ……」
ぶつかった相手のぼやきにはっとして、慌てて顔を上げる。
「しっ、失礼しま――」
えっ! 月舘先生!? よりによって……。
見上げた先にいたのは、スクラブ姿の月舘先生。
「前を見ないだけでなく廊下を走りだすなんて、それでもここのスタッフか……って、またお前かよ」
一気にいろんなことが起きすぎてパニックだ。
すると、月舘先生はむすっとした表情をしながらも、座り込んでいた私に手を差し伸べた。
私は反射的にその手を取ろうと右手を動かす。しかし、ふいに後方から痛いほどの視線が注がれている気がして、身体が硬直した。
そんな私に痺れを切らした月舘先生は、手首を掴み、力任せに引っ張った。
「すっ、すみません。……あの?」
立ち上がったあとも、なぜか月舘先生は手を離さないものだから、不思議に思って彼をうかがった。
月舘先生は、そのまま静止し数秒間黙ったまま。それから少しして、怜悧な目をこちらに向けた。
「え……と」
それなのに今朝はいつもより早く目覚めてしまい、胸がぞわぞわする。
先月不運にも遭遇して以降、ぱたりと姿を見せないから、少し警戒心も薄れていたところに昨日の出来事で打ちのめされている。
職場に着いてもなおモヤモヤした気持ちは変わらず、気づけば昼になっていた。
今日は無駄に早起きしたから、お弁当を作って持ってきていた。
飲み物だけを売店で買い、廊下を引き返して数分後。
外来の患者さんもほとんどいない廊下で佇む人影には、否が応にも目がいく。
そして、そのスーツ姿の男性が皆藤さんだとわかるなり、自分でも驚くほどの動(どう)悸(き)に襲われた。
「あ、いた。有津さん」
笑顔でさわやかに手を振られても、私にとっては恐怖でしかない。
いつから? どうしてここに? なんのために?
『いた』という発言からして、私がここにいることを知っていたとしか思えない。いったいどうやって……。
人間、想像を超える出来事に見舞われると、声も出なければ足も動かないらしい。
そんなこと、身をもって知りたくなんかなかった。
皆藤さんは笑顔を貼りつけたまま、こちらに歩みを進める。
「あれ? なんか大丈夫? 汗がすごいね。待って。僕、ハンカチ持ってるから」
皆藤さんの指摘通り、手もじっとり汗ばむ感覚はあった。
恐怖と混乱が相まって、無意識に後ずさりをする。
目の前の彼がゆっくりと、でも着実に私との距離を詰めてくる。耐えきれなくなって思わず勢いよく身体を翻して駆け出そうとした。
次の瞬間。
「きゃっ」
下ばかり向いて視野が狭くなっていたため、前方をちゃんと見ていなかった。
誰かに勢いよくぶつかった反動で、私は尻もちをつく。
「痛ってえ……」
ぶつかった相手のぼやきにはっとして、慌てて顔を上げる。
「しっ、失礼しま――」
えっ! 月舘先生!? よりによって……。
見上げた先にいたのは、スクラブ姿の月舘先生。
「前を見ないだけでなく廊下を走りだすなんて、それでもここのスタッフか……って、またお前かよ」
一気にいろんなことが起きすぎてパニックだ。
すると、月舘先生はむすっとした表情をしながらも、座り込んでいた私に手を差し伸べた。
私は反射的にその手を取ろうと右手を動かす。しかし、ふいに後方から痛いほどの視線が注がれている気がして、身体が硬直した。
そんな私に痺れを切らした月舘先生は、手首を掴み、力任せに引っ張った。
「すっ、すみません。……あの?」
立ち上がったあとも、なぜか月舘先生は手を離さないものだから、不思議に思って彼をうかがった。
月舘先生は、そのまま静止し数秒間黙ったまま。それから少しして、怜悧な目をこちらに向けた。
「え……と」