激情に目覚めた冷徹外科医は契約妻を蕩けるほどの愛で搦めとる
 帰宅中も、頭の中には皆藤さんがちらついていた。
 かなり広範囲まで皆藤さんの気配はないかどうか気を張って、アパートに駆け込む。集合玄関でもたもたするのも怖くて、郵便ポストの中身を急いで取り出し、オートロックを解錠してホールへ足早に移動した。
 階段を急いで上りながら、ふと気づく。
 この物件は、オートロックだしいいなと思って決めた。だけど、よくよく見たら、防犯カメラらしきものは見当たらない。もしも、オートロックをすり抜けてこられてなにかあっても、誰にも気づいてもらえないんだ。
 途端に不安が増していく。それを払拭するように、さらにスピードを上げた。
 自宅玄関のドアを開け、中に入ってすぐに施錠すると、ほっとして力が抜けた。
 靴を脱ぎ、足を進めながら、郵便物を確認する。
 ショップのDMや近所のお店のチラシなどが入っている中、ひとつ折りされた便(びん)箋(せん)のような白い紙が挟まっているのに気づいた。
 紙を開いた瞬間、背筋が凍り「ひっ」と声が漏れ出た。
【おかえりなさい。今日は帰宅の時間が合わず、顔が見られないのが寂しいです】
 差出人の名前はないけれど、心当たりはひとりだけ。
 急激な心拍数を自分でも感じて、冷や汗が浮かぶ。
 アパートだけでなく、部屋番号まで知られているの……?
 戦慄が走り、手が震える。
 真っ暗な中、その場に座り込んで動けなかった。
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