DEAR.

ゆっくり車椅子を押して、桜を楽しむ。


「桜だけじゃないね。よーく見ると、違う花も咲いてる。可愛いね」

「この花、丸っこくて可愛い」

「確かに!何だろうねー、名前」

「書いてくれればいいのに」


まるで老夫婦みたいに、土手をのんびり散歩する。

こんな余生を過ごしたいな、と思った。


「そろそろ戻ろっか」

「うん、戻ろう」


病室に戻ろうと引き返そうとすると、玲央が私を見上げた。


「ちょっとこっち来て」

「ん?」

「しゃがんで」


すると桜の花びらを手に取って、ふっと飛ばした。


「前髪に付いてた」

「そっか」


立ちあがろうとすると、抱き寄せてきて、不意に唇を重ねてきた。


「ごめんね、付き合うまで我慢できなかった」


私は赤面するしかなかった。


「帰るよ!」

「照れてんじゃん」


病室に着くと、私は荷物を持ってそそくさと帰ろうとする。


「ねえ、そんなすぐ帰ろうとしないでよー。余韻楽しもうよ」

「そんな余裕ない!じゃあ!」

「じゃあねー」


玲央にキスされた、玲央にキス…された。

頬が染まるだけ。

フワフワする。

< 32 / 68 >

この作品をシェア

pagetop