想いはきっと痛くない
そう思って、外に出たけど、どうしてもやっぱり大勢いるとこに行く気にはなれなくて、通る人の少ない、昇降口の隣の階段へ向かった。

階段だけど、色んな声が聞こえた。

お化け屋敷から聞こえるだろう悲鳴。フォトスポットでの女子の声。劇をそろそろ始めるというアナウンスや、自分のクラスの宣伝の声。


「文化祭だなぁ」


あれ、そういえば体育祭のときもこんな感じに呟いてたなぁ。

そう思いながら階段を上ってると、目の前に誰かがいた。

少ないと思ってたけど、流石の文化祭だしいるか。と思いながら少し歩みを遅くしながらも、登っていた。けど、見覚えのあるTシャツ、髪。


「あれ、藤堂くん?」

「え? あれ、梓月じゃん。珍しい、外出たの?」


振り返ったのはやっぱり藤堂くんだった。

安心したので、歩みを元に戻して藤堂くんの一段下に立った。

でも、振り返った彼の顔色が少し悪く見えた。


「……藤堂くん? 大丈夫?」

「んー? 何が?」

「何がって、顔色悪くない?」


にこっと笑顔を作られたけど、その笑顔は、あの時の思い出される笑顔だった。


「あの……体調、悪い?」

「いや、ううん。大丈夫」


いやいや、大丈夫って顔ではない。どこか、疲れたような、無理をしてるような、そんな顔。

多分、クラスかなにかでなんかあったんだろう。

ここでそっかって、引き下がっちゃダメな気がする。


「ね、先生に言ってさ、休ませてもらおうよ。わかってくれるよ」

「いいから、ごめん。戻る」

「でも、顔色悪いよ」


このまま彼を戻してはいけないと思った。

こんな疲弊してる状態で。でも……。


「いいからっ!」

「でも……」


強要はよくない。わかってる。わかってたけど。

なぜか私は止まる、ということができなかった。


「……いいよな」

「え?」


聞いたことのない、低音が耳に届いた。


「いいよな、梓月は。親が理解あるもんな。先生が協力してくれるもんな。恵まれてるやつに、俺の気持ちはわかんねぇよ!」


そう言い切った後、彼はハッとしたような顔をした。


でも、私にはそれがしっかり見えていなかった。

冷水を頭からかけられたような気がした。何も言えなかった。何も動けなかった。

気が付いたら、彼は目の前からいなくなっていた。


きっと、私は彼を傷つけた。一体いつから?何から?

今の私は、あの時嫌だったあの子たちと、おんなじだ。


「どー、しよう」


絶望的。

呼吸がまともにできている気がしない。上手く立てているのかわからない。

初めて聞く声だった。初めて見る瞳だった。
それほどに、彼を怒らせてしまったんだ。

どうしたらいいのかわからない。追いかける?いや、あんなことした手前、追いかけても藤堂くんを不快にさせるだけ。


「っ……」


気づけば、手のひらに爪の跡が残るほどに手を握っていた。

大量に流れる涙をどうすればいいのかも、わかんなくなっていた。
< 42 / 52 >

この作品をシェア

pagetop