図書室のゴーストライター ~放課後の図書室で、私たちは世界を書き換える~

第2話:たった一人の編集者


「ふうかちゃん! ごめんごめん、お待たせ」


廊下を駆けてきたような軽い足音と共に、
彼が姿を現した。

昨日までは遠い存在だった「学校一の人気者」が、私の名前を当たり前のように、親しみを込めて呼んでいる。


『いえ、大丈夫ですよ。私も今来たところなので』


私が一方的に彼の名前を知っていただけで、
言葉を交わしたのは昨日が初めてなのに。

彼は、ずっと前からの友人であるかのように、
私の隣の椅子に腰を下ろした。

飾らない笑顔、そして相手との境界線を軽やかに飛び越えてくる真っ直ぐな言葉。

こういう無意識な振る舞いが、自然と人の好意を引き寄せてしまうんだろうなと、私は改めて彼の抗えない魅力を突きつけられた気がした。


『……それで、今日はここまで書いていて……』


ドクドクと高鳴る心臓をなだめながら、私はスマートフォンの画面を彼の方へ向けた。

まだ誰の目にも触れていない、生まれたばかりの不格好な物語。


「なるほど。少しじっくり見てみるから、コピペして送ってくれる?」


彼はカバンから自分のスマートフォンを取り出すと、さっそく「編集者」としての顔を見せる。

ただの読者から、
一番近くで物語を支えるパートナーへ。

画面越しに文字を共有するその一瞬、二人の間に、目には見えない特別な絆が結ばれたような気がして、私は少しだけ指先を震わせながら送信ボタンを押した。
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