図書室のゴーストライター ~放課後の図書室で、私たちは世界を書き換える~
『……あの、ひとつだけ聞いてもいいですか』
スマホの画面から顔を上げ、私は隣に座る彼を見つめる。
どうしても、聞かずにはいられなかった。
これほどの表現力と、物語を読み解く鋭い目を持っている彼が、どうして「サポート役」に甘んじているのか。
「ん? なあに」
屈託のない、いつもの優しい声が返ってくる。
『蓮見くんは……その、自分で物語は書かないんですか? ここまで綺麗にリライトできるなら、書けると思ったのですが……』
私の問いを聞いた瞬間、
彼の表情に微かな影が差した。
ほんの一瞬だけ。
けれど、その後に浮かべたのは、どこか遠くを惜しむような、寂しそうな苦笑いだった。
……あ……。
心臓がちくりと痛む。
聞いちゃいけないことだったのかもしれない。
踏み越えてはいけない一線を、私は無遠慮に跨いでしまったんじゃないか。
そんな後悔が、じわりと胸の奥に広がっていく。
「……書けなくなるんだ。ある一定のところまでお話を書いちゃうと、どうしても、その先が」
彼は自分の手のひらを見つめながら、ぽつり、ぽつりと告白するように言葉を繋いだ。
「学校一の人気者」という完璧な仮面の裏側に隠されていた、挫折の記憶。
彼が私の物語に「救われた」と言った本当の理由が、静かな図書室の空気の中に溶け出していく。