図書室のゴーストライター ~放課後の図書室で、私たちは世界を書き換える~

「スランプ、って言うのかな。前までは、ふうかちゃんみたいにたくさん作品を作ってたんだけどね。ある日、突然――なにもストーリーが思い浮かばなくなったんだ」


作家であれば、きっと誰もが一度はぶつかる壁。

今は書くことが日常になっているけれど、私だってかつて、同じような底なしの不安に足を取られたことがある。

書き続けるか、それとも筆を折るか。

その残酷な選択を突きつけられる、表現者の世界における、抗いようのない「病」。


「でも、そんな時にね。見つけたんだよ。ふうかちゃん……ううん、涼風先生の作品を」


淡々と語る彼の顔から、先ほどまでの悲痛な影が少しずつ消えていく。

代わりに宿ったのは、暗闇の中で小さな灯火を見つけた時のような、穏やかで強い光だった。


「ひとつ読んだら、もう止まらなくて。気づいたら夕食の時間になるまで、ずっとスマホにかじりついて読んでたんだ。世の中には、こんなにも鮮やかに自分を表現できる人がいるんだって、衝撃だった」


感動をなぞるように言葉を紡ぐ彼は、
そっと視線を落として微笑む。


「俺の夢は、その時に決まったんだ。将来、俺みたいにスランプで悩んだり、才能があるのに自信が持てなかったりする作家さんの、力になりたい。……一番近くで、その物語が完成するのを見守りたい、ってね」


彼にとって、私はただの「無名作家」じゃない。

一度は物語を諦めた彼を、再びこの世界に呼び戻してくれた、かけがえのない「希望」そのものだったのだ。
< 17 / 39 >

この作品をシェア

pagetop