図書室のゴーストライター ~放課後の図書室で、私たちは世界を書き換える~
『……もう、謝らなくていいんです。ただ……私も、お話を書けなくなってしまって』
誰もいない教室の隅、掃除用具ロッカーの冷たい感触を背中に感じながら、私は震える声を絞り出した。
嘘偽りのない、今の私の本当の姿。
「……うん」
隣に座る彼は否定せず、ただ短く、
私の言葉を拾い上げるように頷いてくれた。
その静かな肯定が、私の喉の奥に溜まっていた澱(おり)を少しずつ溶かしていく。
『書いても書いても、納得がいかなくなって……。こんな作品を、蓮見くんに見てもらうことすら、恥ずかしいと思ってしまって……っ』
喉がキュッと締まるような感覚に襲われる。
もっと伝えたいことはたくさんあるのに。
彼への感謝も、申し訳なさも、情けなさも。
それなのに、言葉は涙に邪魔されて、上手く形になってくれない。
かつて彼が味わった「スランプ」という呪いに、
今度は私が囚われている。
放課後の教室、オレンジ色の夕日が長く伸びて、
私たちの影を床に焼き付けていた。
完璧な編集者でいてくれる彼に、不完全なものを見せたくないという身勝手なプライド。
それが、一番鋭い刃となって私自身の心を切り刻んでいた。