図書室のゴーストライター ~放課後の図書室で、私たちは世界を書き換える~
「あの、別に言いふらそうとか、そんなことは考えてないんです」
背後から届いたのは、意外なほど穏やかで、こちらの動揺を気遣うような響きだった。
けれど、その優しさが逆に怖くて、私は返事ひとつ返すことができない。
『…………』
沈黙だけが、重く、冷たく図書室に降り積もる。
逃げ出したいのに、彼の視線が私の背中に焼き付いているようで、指先ひとつ動かせない。
そんな私の困惑を知ってか知らずか、彼はもう一度、あの名前を口にした。
「涼風璃杏さん、ですか?」
『はい、そうです』なんて。
この画面の向こう側にいるのが私だと、自信満々に胸を張って言えたら、どれだけよかったことか。
けれど、今の私にそんな勇気はない。
私なんて、誰にも知られず、
ただ隅っこで文字を打ち込んでいるだけの、何者でもない無名作家にすぎないのだから。
憧れのペンネームを「学校一の人気者」である彼に呼ばれるたび、自分の存在が不相応なもののように感じて、心臓が痛いくらいに脈打った。