図書室のゴーストライター ~放課後の図書室で、私たちは世界を書き換える~
『えっと……ありがとう、ございます。……蓮見、來……さん』
震える声で、ようやく彼の名前を呼ぶ。
ずっと遠くから眺めるだけだった彼を、まさかこんな間近で、一対一の対話の中で口にする日が来るなんて思いもしなかった。
「あれ、名前知ってくれてたんだ」
そう言って少しだけ目尻を下げる彼は、
私が今まで勝手に抱いていた「人気者」のイメージとは、正反対のところにいた。
もっと自分の立場を鼻にかけて、
調子に乗っているような人だと思っていたのに。
目の前の彼は、威圧感どころか、壊れ物に触れるような優しさで私の隣に寄り添っている。
『そ、そりゃ……有名、ですから。蓮見さんは……』
「勝手に周りが騒いでるだけだよ。でも、ありがとう。知っててくれて。はたから見たらさ、図書室で女の子に話しかけてる不審者じゃん? 笑」
いたずらっぽく笑う彼の言葉に、
思わず肩の力が抜ける。
その屈託のない笑顔が、私の周りに張り巡らされていた防衛線を、ゆっくりと、けれど確実に溶かしていくのが分かった。
彼は、ただの「人気者の蓮見くん」じゃない。
私の物語を大切に読んでくれている、一人の、とても温かい人だ。