図書室のゴーストライター ~放課後の図書室で、私たちは世界を書き換える~
「そうそう。君が涼風璃杏さんなら、改めて伝えたいことがあるんですけど」
少しだけ声を潜め、けれど逃げ場のないほど真剣な眼差しを向けて、彼は言葉を紡いだ。
『伝えたいこと……?』
嫌な予感なんてしなかった。
ただ、今の会話の続きにしては、彼の空気があまりに重厚で、私は思わず息を呑む。
次に彼の唇から溢れたのは、私の想像を遥か遠くへ置き去りにする、とんでもない「願い」だった。
「俺を、あなたの編集者にしてくれませんか」
『…っ?』
心臓が、大きく一度だけ跳ねた。
彼は今、何を言っているんだろう。
学校一の人気者が、こんな、たった数人にしか読まれていない無名作家のパートナーになったところで、彼に得られるメリットなんて何ひとつないはずなのに。
『あの……正気、ですか?』
混乱のあまり、失礼な言葉が口を突いて出た。
けれど、彼は一瞬たりとも視線を逸らさず、むしろさらに深く、私の目を見つめてくる。
「俺はいつでも本気です」
冗談で言っているようには、到底見えなかった。
その瞳の奥には、彼がかつて大切にしていた何かを、今度こそ守り抜こうとするような、悲壮なまでの決意が宿っている。
『……何でまた、私に……?』
震える声で、ようやくそれだけを問いかける。
どうして、よりによって私なの。
どうして、そこまで必死に私の世界へ踏み込もうとするの。
答えを求める私の前で、彼はゆっくりと、けれど力強く、言葉の続きを紡ごうとしていた。