暴れる恋情 ~萌ちゃんママは御曹司に激愛されまくりです~
ところが。ある日、大きく店の一角を使って『ニコチャンマン』フェアを開催してくれていた。『ニコチャンマン』はシマリスの看板商品だ。大ヒットシリーズ絵本なのだが、さらに売ってもらえそうでうれしくなる。
「うちの商品をありがとうございます」
と、あの眼鏡にショートカットの児童書担当女性(後で秋田さんというと知った)につい御礼を言ってしまった。秋田さんは俺が雑誌のインタビュー記事に載っていたことを思い出したらしい。
「藤堂さんってシマリスの社長さんですよね?」
と、ちょっとした騒ぎになってしまった。俺は丁寧に吉永書店をどこよりも懇意にしている話をして、何とか場をおさめた。
帰ろうとしていると書店員の女性の一人が俺に近付いてきた。
「叔母がお世話になっています」
深雪に一番仲がいいんです、と紹介された真奈美さんが不意にそんなことを言った。
「叔母というと」
「『ニコチャンマン』の作者の岡崎まさこは私の母方の叔母なんです。叔母の手ほどきがあって私は読書好きになって書店員になりました」
「そうでしたか。岡崎さんの。それは嬉しいつながりだな」
「これからもよろしくお願いします。叔母も、深雪も」
もちろんです、と言うしかなかった。
次に深雪と食事に行った帰りに、駐車場まで歩くのに公園の中を通って行った。人気はなく静かだった。
そこで深雪に俺のことで困らなかったかきいた。俺の外見のせいで芸能人のように騒ぐタイプがいるので参ってしまう。
「いえ。困ったりはしませんでした。ただ私と藤堂さんがどういう関係かきかれてしまって。今まではちょっとしたお知り合いくらいでかわしてたんですが、藤堂さんがシマリスの社長とわかったので追及されてしまって」
「やっぱり困っているじゃないか」
そこまで言って俺は気が付いた。
これは、チャンスじゃないか?
「そんなふうに言われたらはっきり言えばいい。恋人ですと」
「えっ......」
深雪の瞳が大きく見開かれる。
俺は彼女の瞳を強く見つめた。
「今まではっきり言葉にしなくてすまなかった。俺は君のことが好きなんだ。恋人になってほしい。もちろん結婚を前提として」
◇◇◇◇◇
「俺は君のことが好きなんだ。恋人になってほしい。もちろん結婚を前提として」
驚きで胸がいっぱいになった。
確かに藤堂さんはよく書店に来てくれた。私のことをじっと見つめていた事だってあった。でもそれは、本が好きなんだ、だからそんな感じなんだ、と思い込んでいた。
いや。本当は、彼が店に来ているとき、私に会いたくて来ていればいいのに、と何度も思った。
でも思い込んでしまうのが怖くて。
実は私のことなんて何とも思ってないと知るのが怖くて。
私は藤堂さんは本好きだから店に来てくれるんだ、と自分に言い聞かせようとしていた。
そして時折、藤堂さんに『会いたかった』とか『会うと励まされる』とか言われると、藤堂さんが私を好きなんじゃないかという気持ちが膨らみ始め、自分でも抑えることができなくなりつつあった。
そんな藤堂さんの口から、はっきりと結婚を前提に恋人になってほしいと言われれてしまった。
私はずっと書店でレジで本を買う藤堂さんの姿を見てきていた。
王子様と陰で呼んだりして。いつか話せたらいいな、と思っていたのが最近は話したりお食事に行くこともできた。
藤堂さんは綺麗なだけの男性ではなく、本に対して熱い思いを秘めている、仕事熱心なシマリス出版の社長さんだった。
綺麗な外見とは裏腹に、実は不器用で熱すぎるくらい熱血漢で、泥臭い一面もあることがわかってきた。
王子様と呼んでレジ打ちをしていた頃よりも彼のことをよく知り、彼のことが好きだという気持ちは最高潮に盛り上がってきていた。
それがバレてしまわないか必死で隠そうとしていて。
でも今、藤堂さんから告白されてしまった。
夢は夢でしかない、と思っていたことが現実となってしまって私は物凄く動揺していた。
「わ、私......藤堂さんと違って普通の家の娘です。家柄とかつりあわないんじゃないですか。け、結婚なんて」
気づけばそんなことを口走っていた。
藤堂さんはふっと笑った。
「家柄なんて気にしなくていい。君は充分品があって素敵だよ。誰の前に出してもおかしくないと思ってる。もちろん俺の両親に会わせてもね」
「そんな......私なんか、たいして綺麗じゃないですし。きっと藤堂さんは一時の気の迷いでそんなことを。ほら、本の趣味が合う女子が珍しかっただけでしょう」
言いながら情けなくなってくるけれど、本心だった。
「そんなことはない」
きっぱりと藤堂さんは言った。
「俺は前から君に惹かれていた。こうして会うようになるずっと前からだ。君が書店できびきび働く姿を見ていて、気持ちに喝が入ったんだ。ああ俺もこんなふうに仕事に向き会いたいって本気で思ったよ。これからも俺のやる気を刺激してほしいんだ。それには君の存在は必要だ。でもそれだけじゃないよ。君といると嫌なことがふっとんでいくし、一緒にいると凄く心地いいんだ。気持ちが明るくなるというのかな。とにかく俺は君を全身全霊をかけて好きなんだ。......こんなに人を好きになったのは初めてなんだ」
藤堂さんの言葉が重みを持ってこちらに流れてきて受け止めるのに必死になった。藤堂さんの言葉通りに受け止めれば......私は、ものすごく藤堂さんに思ってもらっているのだ。
口の中がカラカラに渇いている。
驚きと喜びがぐちゃぐちゃになって足に力が入らない。
腰が砕けてしまいそうで、立っているのがやっとだった。
私はなんとか足を踏ん張って、自分を奮い立たせた。
「わ、私も藤堂さんが......好き、です。け、結婚とかはまだ恐れ多くて考えられませんが本当に恋人になってもいいんですか?」
すごく勇気のいる問いかけだった。
藤堂さんはまぶしいくらい優しい目をした。
「うん。俺は君と恋人同士になりたい。他の誰でもない山本深雪さんとね」
胸の内の心の泉が波打った。ぼうっとしてしまって頬が熱くなる。
「深雪さんも俺のことを好きだと言ってくれるなら、俺は君に触れたい」
す、と頬に藤堂さんの手が添えられた。
手の温かいぬくもりが伝わってくる。
「キスしたい。いいかな」
藤堂さんの声はかすれていた。見つめてくる眼差しは熱く迫ってきていて逃げれない、と思った。
男性とつきあったことがなく、キスも初めてだ。でもそんなこと、今は問題じゃない。
私は藤堂さんが好き......拒む理由なんて、ない。
「は、はい......」
小声すぎて聞こえなかったかも、と思ったが次の瞬間もう藤堂さんの顔は近付いてきて、私の唇を捉えた。
ふわっとした優しいキスだった。何度か唇を食み、そっと離れた。
それからぎゅっと身体を抱きしめられた。
わ、抱きしめられるってこんな感じなんだ。
藤堂さんの胸に身体を預けているとなんとも言えない安堵感に満たされた。
ドキドキもしているのだが、なんだかずっと前からこうするのが当たり前だったみたいな気もしてくる。
お互いに触れることを無意識に求めていたのかもしれない......。
それくらいしっくりくる抱擁だった。
「ええい、くそ。深雪さんを帰したくないな」
ええっ、とまたしても藤堂さんは爆弾発言をする。思いがけない言葉が降ってくるから一喜一憂してしまう。
「でも今日はちゃんと部屋まで送るよ。安心して。気持ちが通じ合っただけで胸がいっぱいだ」
それは私も同じ気持ちだった。
帰りの車の中で藤堂さんは劇のチケットをくれた。原作の小説を私も藤堂さんも好きで舞台を見たいね、とお互い言っていたのだ。
舞台の日はちょうど私の公休日で藤堂さんも時間をやりくりして一緒に観ることになった。楽しいデートになりそうで胸が弾む。
劇場の近くのホテルのロビーで待ち合わせることにした。
私のアパートの前に車を停めて、藤堂さんは言葉通り私の部屋の前まで送ってくれるという。
好きな人と両想いになれた、ということが私には非現実的すぎて、足元がふわふわしていた。横を歩く綺麗で優秀な人が私を好き......?やっぱり夢みたい。
私は思わず藤堂さんの顔を見ていたんだと思う。目があって、顔が近付いてきた。ドキッとした瞬間、藤堂さんの唇が私の額に触れた。
ちょうど私の部屋のドアの前だった。
「おやすみ。今日はきっと君の夢を見るよ」
私が部屋の鍵を開けると藤堂さんはじゃあ、と背を向けて帰って行った。
ドアを開けて途端、いろいろ堰きとめていた感情が一気に押し寄せてきた。
うそうそうそ藤堂さんも私が好き恋人......結婚も前提...うそ、すごい...!
へなへなと玄関の床に座り込み、ドアに背を預けた。
はしゃぎ方もわからないので、気持ちが落ち着くまでなかなか立ち上がれなかった。
公休日までの私は地に足がついてなくて、仕事でうっかりミスを連発していた。情けない。いくら恋愛に免疫がないからってこんなことになるなんて。
真奈美に出来の怪しい作業はチェックしてもらうようにしていたので、大きな問題にはならなくてすんだ。もう一人の自分が仕事をないがしろにしないで!とカンカンに怒っていた。
タイミングよく藤堂さんが十日ほど大阪に出張だったのも助かった。今、職場で藤堂さんの顔を見たらふにゃけて使い物にならなくなりそう。
「うちの商品をありがとうございます」
と、あの眼鏡にショートカットの児童書担当女性(後で秋田さんというと知った)につい御礼を言ってしまった。秋田さんは俺が雑誌のインタビュー記事に載っていたことを思い出したらしい。
「藤堂さんってシマリスの社長さんですよね?」
と、ちょっとした騒ぎになってしまった。俺は丁寧に吉永書店をどこよりも懇意にしている話をして、何とか場をおさめた。
帰ろうとしていると書店員の女性の一人が俺に近付いてきた。
「叔母がお世話になっています」
深雪に一番仲がいいんです、と紹介された真奈美さんが不意にそんなことを言った。
「叔母というと」
「『ニコチャンマン』の作者の岡崎まさこは私の母方の叔母なんです。叔母の手ほどきがあって私は読書好きになって書店員になりました」
「そうでしたか。岡崎さんの。それは嬉しいつながりだな」
「これからもよろしくお願いします。叔母も、深雪も」
もちろんです、と言うしかなかった。
次に深雪と食事に行った帰りに、駐車場まで歩くのに公園の中を通って行った。人気はなく静かだった。
そこで深雪に俺のことで困らなかったかきいた。俺の外見のせいで芸能人のように騒ぐタイプがいるので参ってしまう。
「いえ。困ったりはしませんでした。ただ私と藤堂さんがどういう関係かきかれてしまって。今まではちょっとしたお知り合いくらいでかわしてたんですが、藤堂さんがシマリスの社長とわかったので追及されてしまって」
「やっぱり困っているじゃないか」
そこまで言って俺は気が付いた。
これは、チャンスじゃないか?
「そんなふうに言われたらはっきり言えばいい。恋人ですと」
「えっ......」
深雪の瞳が大きく見開かれる。
俺は彼女の瞳を強く見つめた。
「今まではっきり言葉にしなくてすまなかった。俺は君のことが好きなんだ。恋人になってほしい。もちろん結婚を前提として」
◇◇◇◇◇
「俺は君のことが好きなんだ。恋人になってほしい。もちろん結婚を前提として」
驚きで胸がいっぱいになった。
確かに藤堂さんはよく書店に来てくれた。私のことをじっと見つめていた事だってあった。でもそれは、本が好きなんだ、だからそんな感じなんだ、と思い込んでいた。
いや。本当は、彼が店に来ているとき、私に会いたくて来ていればいいのに、と何度も思った。
でも思い込んでしまうのが怖くて。
実は私のことなんて何とも思ってないと知るのが怖くて。
私は藤堂さんは本好きだから店に来てくれるんだ、と自分に言い聞かせようとしていた。
そして時折、藤堂さんに『会いたかった』とか『会うと励まされる』とか言われると、藤堂さんが私を好きなんじゃないかという気持ちが膨らみ始め、自分でも抑えることができなくなりつつあった。
そんな藤堂さんの口から、はっきりと結婚を前提に恋人になってほしいと言われれてしまった。
私はずっと書店でレジで本を買う藤堂さんの姿を見てきていた。
王子様と陰で呼んだりして。いつか話せたらいいな、と思っていたのが最近は話したりお食事に行くこともできた。
藤堂さんは綺麗なだけの男性ではなく、本に対して熱い思いを秘めている、仕事熱心なシマリス出版の社長さんだった。
綺麗な外見とは裏腹に、実は不器用で熱すぎるくらい熱血漢で、泥臭い一面もあることがわかってきた。
王子様と呼んでレジ打ちをしていた頃よりも彼のことをよく知り、彼のことが好きだという気持ちは最高潮に盛り上がってきていた。
それがバレてしまわないか必死で隠そうとしていて。
でも今、藤堂さんから告白されてしまった。
夢は夢でしかない、と思っていたことが現実となってしまって私は物凄く動揺していた。
「わ、私......藤堂さんと違って普通の家の娘です。家柄とかつりあわないんじゃないですか。け、結婚なんて」
気づけばそんなことを口走っていた。
藤堂さんはふっと笑った。
「家柄なんて気にしなくていい。君は充分品があって素敵だよ。誰の前に出してもおかしくないと思ってる。もちろん俺の両親に会わせてもね」
「そんな......私なんか、たいして綺麗じゃないですし。きっと藤堂さんは一時の気の迷いでそんなことを。ほら、本の趣味が合う女子が珍しかっただけでしょう」
言いながら情けなくなってくるけれど、本心だった。
「そんなことはない」
きっぱりと藤堂さんは言った。
「俺は前から君に惹かれていた。こうして会うようになるずっと前からだ。君が書店できびきび働く姿を見ていて、気持ちに喝が入ったんだ。ああ俺もこんなふうに仕事に向き会いたいって本気で思ったよ。これからも俺のやる気を刺激してほしいんだ。それには君の存在は必要だ。でもそれだけじゃないよ。君といると嫌なことがふっとんでいくし、一緒にいると凄く心地いいんだ。気持ちが明るくなるというのかな。とにかく俺は君を全身全霊をかけて好きなんだ。......こんなに人を好きになったのは初めてなんだ」
藤堂さんの言葉が重みを持ってこちらに流れてきて受け止めるのに必死になった。藤堂さんの言葉通りに受け止めれば......私は、ものすごく藤堂さんに思ってもらっているのだ。
口の中がカラカラに渇いている。
驚きと喜びがぐちゃぐちゃになって足に力が入らない。
腰が砕けてしまいそうで、立っているのがやっとだった。
私はなんとか足を踏ん張って、自分を奮い立たせた。
「わ、私も藤堂さんが......好き、です。け、結婚とかはまだ恐れ多くて考えられませんが本当に恋人になってもいいんですか?」
すごく勇気のいる問いかけだった。
藤堂さんはまぶしいくらい優しい目をした。
「うん。俺は君と恋人同士になりたい。他の誰でもない山本深雪さんとね」
胸の内の心の泉が波打った。ぼうっとしてしまって頬が熱くなる。
「深雪さんも俺のことを好きだと言ってくれるなら、俺は君に触れたい」
す、と頬に藤堂さんの手が添えられた。
手の温かいぬくもりが伝わってくる。
「キスしたい。いいかな」
藤堂さんの声はかすれていた。見つめてくる眼差しは熱く迫ってきていて逃げれない、と思った。
男性とつきあったことがなく、キスも初めてだ。でもそんなこと、今は問題じゃない。
私は藤堂さんが好き......拒む理由なんて、ない。
「は、はい......」
小声すぎて聞こえなかったかも、と思ったが次の瞬間もう藤堂さんの顔は近付いてきて、私の唇を捉えた。
ふわっとした優しいキスだった。何度か唇を食み、そっと離れた。
それからぎゅっと身体を抱きしめられた。
わ、抱きしめられるってこんな感じなんだ。
藤堂さんの胸に身体を預けているとなんとも言えない安堵感に満たされた。
ドキドキもしているのだが、なんだかずっと前からこうするのが当たり前だったみたいな気もしてくる。
お互いに触れることを無意識に求めていたのかもしれない......。
それくらいしっくりくる抱擁だった。
「ええい、くそ。深雪さんを帰したくないな」
ええっ、とまたしても藤堂さんは爆弾発言をする。思いがけない言葉が降ってくるから一喜一憂してしまう。
「でも今日はちゃんと部屋まで送るよ。安心して。気持ちが通じ合っただけで胸がいっぱいだ」
それは私も同じ気持ちだった。
帰りの車の中で藤堂さんは劇のチケットをくれた。原作の小説を私も藤堂さんも好きで舞台を見たいね、とお互い言っていたのだ。
舞台の日はちょうど私の公休日で藤堂さんも時間をやりくりして一緒に観ることになった。楽しいデートになりそうで胸が弾む。
劇場の近くのホテルのロビーで待ち合わせることにした。
私のアパートの前に車を停めて、藤堂さんは言葉通り私の部屋の前まで送ってくれるという。
好きな人と両想いになれた、ということが私には非現実的すぎて、足元がふわふわしていた。横を歩く綺麗で優秀な人が私を好き......?やっぱり夢みたい。
私は思わず藤堂さんの顔を見ていたんだと思う。目があって、顔が近付いてきた。ドキッとした瞬間、藤堂さんの唇が私の額に触れた。
ちょうど私の部屋のドアの前だった。
「おやすみ。今日はきっと君の夢を見るよ」
私が部屋の鍵を開けると藤堂さんはじゃあ、と背を向けて帰って行った。
ドアを開けて途端、いろいろ堰きとめていた感情が一気に押し寄せてきた。
うそうそうそ藤堂さんも私が好き恋人......結婚も前提...うそ、すごい...!
へなへなと玄関の床に座り込み、ドアに背を預けた。
はしゃぎ方もわからないので、気持ちが落ち着くまでなかなか立ち上がれなかった。
公休日までの私は地に足がついてなくて、仕事でうっかりミスを連発していた。情けない。いくら恋愛に免疫がないからってこんなことになるなんて。
真奈美に出来の怪しい作業はチェックしてもらうようにしていたので、大きな問題にはならなくてすんだ。もう一人の自分が仕事をないがしろにしないで!とカンカンに怒っていた。
タイミングよく藤堂さんが十日ほど大阪に出張だったのも助かった。今、職場で藤堂さんの顔を見たらふにゃけて使い物にならなくなりそう。