妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
「ほら、こっち、こっち。見て、見て」

 朝食後、エディアルドに連れられ、庭園に来ていた。

「すごく綺麗なお庭ね。丁寧に手入れされているわ」

 私に薔薇のアーチを見せたエディアルドは満足げな顔を見せる。

「向こうの方もいってみよう。噴水の水しぶきが反射するんだ」

 エディアルドは絡ませた腕にギュッと力を込めた。

 スキンシップが激しいほうだけど、人恋しいのかもしれない。でも、こうやって手を引かれ、腕を絡ませたりするのも嫌いじゃない。前世の学生時代を思い出す。

 この子、本当にあのエディアルドなのかと思うぐらい、無邪気な一面を見せた。
 今はエディアルドに寄り添ってあげることを第一に過ごそう。真正面から対立しても、いい結果は生まないだろうし。理解を示し、仲良く過ごそう。

 それから半日、エディアルドの案内につきあった。
 
 ちょっと疲れたので、午後はソファでゆったりと本を読む。

「ねぇ、リゼット。ちょっと見て」

 エディアルドが宝石箱を片手に持って近づいてくると、蓋を開けた。

「うわぁ、すごい綺麗ね」

 中には宝石がびっしりと詰まっていた。それも大きなものばかり。
 いったいこれ、いくらするんだろう。ごくりと息をのんだ。

「綺麗でしょ? 宝物なんだ。おじいさまが会うたびに、一つずつお土産にくれるんだ」

 エディアルドが一つ一つ手に取り、説明してくれるのを黙って聞いていた。

「本当にすごいわね」

 こんなのをポンッと買えるカーライル公爵家の財力が。これ一つで、小さな屋敷が手に入るんじゃないだろうか。

「特に気に入っているのがこれ」

 エディアルドは緑色の宝石を指さす。やや青みがかった濃く、鮮やかなグリーンはエメラルドだろうか。

「リゼットの瞳と同じ色」

 言われてみれば、そうかもしれない。時折、新緑色の瞳を褒められることがあった。

「そう? こんなに綺麗かしら?」

 お世辞でも嬉しいと微笑むと、エディアルドは急に真顔になる。

「うん、綺麗だよ。すごく」

 その様子にドキッとする。一瞬、すごく大人っぽく感じてしまったから。
 エディアルドは宝石箱を指さした。

「欲しかったら、あげる」
「えっ?」

 びっくりして、にこにこと笑みを絶やさないエディアルドを見つめた。

「リゼットが欲しいのなら、全部あげる」

 そんな簡単にもらっていいわけじゃない。そりゃあ、欲しくないといえば嘘になるけど、こんな形でもらうものじゃないでしょ。

「もらえないわよ、エディアの宝物でしょう。それに君のおじい様は、君のことを思って買ってきてくれたんだもの。だから大切にしまっていて」

 私に譲ろうとする宝石箱をエディアルドにしまわせた時、勢いよく扉が開いた。

「エディア!! 帰るなら一言、言ってから――!!」

 部屋に入るなり、ジェラールが叫んだと思ったら、そこで私を視界に入れた。そしてゆっくりと二度見したと思ったら、目を見開いた。

「君は……!」

 ごくりと喉を震わせ、五秒ほど止まると、エディアルドに指を向ける。

「エディア!! 君!! 勝手に連れてきたな!!」

 はい、ジェラール、ご名答。
 さすが長い付き合い、よくわかっている。対するエディアルドはすごくうるさそうに耳をいじった。

「うるさい、ジェラール。部屋に入ってくるなり叫ぶな。リゼットがびっくりするだろう」
「叫びたくもなるさ!!」

 ジェラールは顔を真っ赤にして両手を広げた。

「どうするんだ、こんなことして!! どうりでハモンド家から、急にいなくなったと思ったよ! ばれたら都合が悪かったからだろう! まさかカーライル家に連れてくるなんて」
「そうだよ、ハモンド家なら人が多いだろう。邪魔されたくなったんだよ、特にジェラールには」
「だからって……!!」

 目の前の言い争いをハラハラして見守っていると、ジェラールと目が合った。彼は唇を噛みしめ、息を吐き出した。

「とにかく……安直な行動はやめてくれ。君の行動に振り回される方の身にもなれ」

 ジェラールは私に近づくと、地面にスッと片膝をつく。

「リゼット・グリフ嬢。すまなかった、迷惑をかけただろう」

 もしかしてこの人、事情を知ったから、私を家に帰してくれるかもしれない。一抹の望みをかけ、切り出すことにした。

「あの――」
「だが、エディアルドの相手をしてくれないだろうか。もう少しだけ辛抱してくれ」

 あっ、やっぱりジェラールはエディアルドの下僕だわ。
 私を助けるどころか、なだめる方にまわるだなんて、やはり期待してはいけない。エディアルドを止める力は、彼にはない。

「――わかりました」

 どうせここからは容易に逃げられない。だったら、仲良くなってからの解放を望むわ。
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