妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
 ゆっくりと瞼を開けるとあたり一面は闇に包まれていた。自身の体さえ、どこにあるのかわからない。

 体は存在せず、意識だけが闇に落ちてしまったような感覚。
 だが背後に感じる気配に、息をのむ。

 ――なにか、いる。

 怖くて振り返ることもできない。たが、今にも私を飲み込もうとしているのを感じる。

 大型動物に耳元でハッハッと吐息を聞かされているような心境になり、鳥肌の立つ感覚に、ごくりと息をのむ。
 真っ暗闇の中、出口が見えない。この闇に溶けて同化してしまうような気がした時、目の前のずっと先に、フッと光が見えた。

 ――あれだ!!

 私は光の方へ駆け出した。ただ、真っすぐに光のある方を目指す。
 耳元で気配が感じるが消えてはくれない。それどころか、徐々に距離を詰め、今にも私を獲って食べそうな勢いだ。足がすくみそうになるが、立ち止まってはいけない。

 やがて光のゴールが近づき、安堵する。

 徐々に闇が近づいてくる感覚に、今さらながら、足がガクガクときた。しまった、ゴールが近くなったことで、気が緩んでしまった。

「あっ!!」

 肝心なところで足がもつれ、転んでしまう。

 モウオシマイダネ――

 闇が勝利を確認し、あざ笑うような声が聞こえた。
 嫌よ、私は家に帰るのだから――!

 唇をグッと噛みしめ立ち上がり、再び足を動かした時、右腕にヒヤリとした感覚がある。

 ――捕まってしまう!!

 全身に鳥肌が立つと同時に反射的に顔を伏せた。だが、次の瞬間、周囲をまばゆい光が包む。

 そこに現れたのは大きな光の輝きだった。
 私の背後にいるなにかが、ひるんだのを感じた。

 ――今だ!

 私はチャンスを逃さす、光の方向へと飛び込んだ瞬間、左手の薬指が熱くなった。

 薄れゆく意識の中、私に光の精霊の加護を預けた夢の中の女性が、優しく微笑んだ気がした――。

 ゆっくりと瞼を開けると、エディアルドが苦渋の表情を浮かべ、側で立ち尽くしていた。

「どうして――」

 絞りだす声は、自分が負けたとは信じがたい様子だった。

「私の勝ちね」

 私はエディアルドに向かって声をかけた。だが全身に力が入らない。
 もしかしたら精霊の加護を使いすぎてしまったのかな。夢と現実ともつかない世界を全力で走って、とても疲れている。

 ダメだ、瞼を開けていられない。私は意識を手放した。

 ***

 次に目を開けると周囲は明るくなっていた。
 もしかしてもう朝なのだろうか。部屋に日差しが入り込んでいる。私はあのまま、ずっと眠り続けたのだろうか。

「リゼット……」

 ベッド脇からエディアルドがガバッと身を起こした。もしかして一晩中、ついていてくれたの? エディアルドの美しい顔にクマが浮かんでいるので、きっとそうなのだろう。

「心配かけてごめんね」

 エディアルドの頬にそっと触れると柔らかく微笑み、私の手に頬ずりした。

「良かった、すごく心配した」

 私の感触を確かめるように、手を握る。

「朝食を食べましょうか」

 いつも通りの私にエディアルドはホッとしたようで、準備してくると告げ、部屋から出ていく。今日でお別れなのだから、笑顔で別れると決めていたのだ。

 ***

「嫌だ。絶対に嫌」

 エディアルドと向かい合い、穏やかな雰囲気の中で朝食を食べ終えた。勝負にも勝ったし、穏便に帰れると思っていた。だが、エディアルドの様子が豹変したのは、朝食後のデザートを食べていた時。

 そう、私が帰ると言い出してからだ。

「エディア、いい加減にしろ」

 様子を見守っていたジェラールが仲裁に入る。

「そこまで頑なな態度はどうしたんだ。お前は一人の人間の人生を奪うことになるんだぞ」

 強い口調で叱責するがエディアルドは無言だ。

「自我を貫くのもいい加減にしろ! リゼット嬢に嫌われてもいいのか!?」

 そこでエディアルドの顔に動揺が走る。目を大きく見開いたのち、すごい勢いで顔を向ける。

「――俺がこんな姿だから嫌だったの……?」

 大きな目が潤み、今にも泣きだしそうにクシャリとゆがむ。
 エディアルドは綺麗にまとめた髪を、かきむしり始めた。

「もう、やめてやる! こんな姿、俺じゃない!!」

 低い声は完全に男性のものだ。

「やめろ、エディア!!」
「俺がこんな恥ずかしい格好だから、リゼットは俺から去っていくんだ」

 それは魂の叫びのようにも聞こえた。

 今の姿は本人が望んだわけじゃない。五大属性の精霊の加護を抑えているのだってそうだ。性別も精霊の加護も、すべて封じられている。

 部屋に禍々しい空気が立ち込め始める。
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