妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
「うん、気持ちは嬉しいけど、私は帰らないといけないわ」
エディアルドはショックを受けたようで、唇をグッと噛みしめた。
「明日、帰るね。また一緒に紅茶を飲みに来るから」
だがここで、負けてはいけない。ずるずると過ごすことになったら、それこそ帰るタイミングを無くしてしまう。だからお願いじゃなく、宣言するのだ。
「帰るまでに、たくさん話をしましょう」
エディアルドはスッと椅子から立ち上がると、ムッと唇を尖らせている。
私の方も見ずに、部屋から出て行った。
ああ完全に臍を曲げてしまったな……。でも、帰りたい私はここで気丈な態度を崩すべきではない。譲れないものはあるのだから。
エディアルドが部屋から出て行ったので、本を読んでいた。しばらくすると、そっと扉が開かれて、気まずそうにおずおずと顔を出したエディアルドに駆け寄った。
「来てくれると思ったよ」
そうだ、明日には帰ってしまうのだから、怒っている時間がもったいない。少しでも楽しい思い出を作りたいじゃない。
エディアルドは私が声をかけるとホッとして表情が緩んだ。
「俺――考えたんだ」
「うん?」
エディアルドはもう私の前で俺と呼ぶのを隠そうとしない。
徐々に男らしくなる言葉遣いは、ジェラールの言う通り、魔法が解けてきているのかもしれない。でも、どんな姿でもエディアルドはエディアルドだ。小説のように残酷な生き方をしなければ、それでいい。私自身も一緒に過ごすにつれ、情がわいたみたいだ。
「リゼット、俺と勝負しよう」
「えっ……?」
それはカードゲームとかチェスのことだろうか。
「頭脳戦は苦手なのよね」
「違うよ。リゼットと俺の闇の加護で勝負しよう。それに勝てば帰してあげる」
エディアルドの目が冷たく光る。――これは本気だ。
「だって俺、考えたんだ。ここにいればリゼットの望む物を全部与えてあげる。妹に最善の治療を施して欲しいと願えば、最高級の魔法治療師を派遣すると約束する」
魔法治療師とは王族レベルじゃなければ治療してもらうことのできない、高等技術の持ち主だ。噂によれば、不治の病も治すことが可能だとか。
私がエディアルドのもとに残ればシアナの命が約束される――。
「毎日、最高に甘やかして、好きなものを食べさせてあげる。綺麗なドレスを着て、宝石だって山ほど買ってあげるし、二人でいろいろな別荘を転々として過ごそう。普通じゃ体験できない贅沢だってさせてあげる。俺の側にいるなら」
悪魔の誘惑のように魅力的にも思えるが、脳裏に浮かんだのは小さい時のシアナだ。
夜になると咳が激しくなり、一生懸命に背中をさすった。早く良くなるようにと願いを込めていると、シアナはありがとうお姉さまと、微笑んだ。
その笑顔が側で見たくて、私はこうやって懸命に頑張っているの。私がいなくなったら、泣かせてしまう。シアナにはいつでも笑顔でいて欲しいのに。
シアナは私が側で見守りたい。なんの前触れもなく、いきなり関係を切るなんて、私にはできない。
エディアルドの美しい顔が契約を取り交わす、魔女のように見える。これ以上ないほどの魅力的な取引に、ゆっくりと首を横に振る。
「それはできないわ」
「そう、じゃあ、仕方ないね。勝負しよう、リゼット」
その勝負に私の拒否権はないように思えた。
そう簡単に私を帰す気はないということだ。それに、あなたから勝負を持ちかけるだなんて、私に勝ち目がないのでしょう? ――ずるい人。
それでも私は受けて立たなければいけない。一度でダメなら、何度でも挑んでやるわ。
ソファに腰かけるようにエディアルドに言われ、静かに従う。
「手を繋いで目を閉じて。五秒数えて目を開けたら、暗闇が広がっているから、ひたすら走って。ゴールは光。俺の精霊が追いかけるから、リゼットはそこまで逃げ切れればいい」
鬼ごっこなのか。相手が人間じゃないところがアレだけど……。でもやるしかない。
「捕まったら終わりね。そしたらリゼットはずっと、ここにいるんだ」
顔に浮かべる笑みはゾッとするほど美しかった。
エディアルドに指示されたとおりソファに横になり、目を閉じる。エディアルドはゆっくりと五秒、数え始めた。
すぐに意識が遠のくなかで、額に柔らかな感触を受けた気がした。
「おやすみリゼット。次に目覚めたら、君は一生俺のものだ――」
聞こえた声は気のせいだったのだろうか。確かめるすべもないまま、混沌とした世界に意識を落とした。
エディアルドはショックを受けたようで、唇をグッと噛みしめた。
「明日、帰るね。また一緒に紅茶を飲みに来るから」
だがここで、負けてはいけない。ずるずると過ごすことになったら、それこそ帰るタイミングを無くしてしまう。だからお願いじゃなく、宣言するのだ。
「帰るまでに、たくさん話をしましょう」
エディアルドはスッと椅子から立ち上がると、ムッと唇を尖らせている。
私の方も見ずに、部屋から出て行った。
ああ完全に臍を曲げてしまったな……。でも、帰りたい私はここで気丈な態度を崩すべきではない。譲れないものはあるのだから。
エディアルドが部屋から出て行ったので、本を読んでいた。しばらくすると、そっと扉が開かれて、気まずそうにおずおずと顔を出したエディアルドに駆け寄った。
「来てくれると思ったよ」
そうだ、明日には帰ってしまうのだから、怒っている時間がもったいない。少しでも楽しい思い出を作りたいじゃない。
エディアルドは私が声をかけるとホッとして表情が緩んだ。
「俺――考えたんだ」
「うん?」
エディアルドはもう私の前で俺と呼ぶのを隠そうとしない。
徐々に男らしくなる言葉遣いは、ジェラールの言う通り、魔法が解けてきているのかもしれない。でも、どんな姿でもエディアルドはエディアルドだ。小説のように残酷な生き方をしなければ、それでいい。私自身も一緒に過ごすにつれ、情がわいたみたいだ。
「リゼット、俺と勝負しよう」
「えっ……?」
それはカードゲームとかチェスのことだろうか。
「頭脳戦は苦手なのよね」
「違うよ。リゼットと俺の闇の加護で勝負しよう。それに勝てば帰してあげる」
エディアルドの目が冷たく光る。――これは本気だ。
「だって俺、考えたんだ。ここにいればリゼットの望む物を全部与えてあげる。妹に最善の治療を施して欲しいと願えば、最高級の魔法治療師を派遣すると約束する」
魔法治療師とは王族レベルじゃなければ治療してもらうことのできない、高等技術の持ち主だ。噂によれば、不治の病も治すことが可能だとか。
私がエディアルドのもとに残ればシアナの命が約束される――。
「毎日、最高に甘やかして、好きなものを食べさせてあげる。綺麗なドレスを着て、宝石だって山ほど買ってあげるし、二人でいろいろな別荘を転々として過ごそう。普通じゃ体験できない贅沢だってさせてあげる。俺の側にいるなら」
悪魔の誘惑のように魅力的にも思えるが、脳裏に浮かんだのは小さい時のシアナだ。
夜になると咳が激しくなり、一生懸命に背中をさすった。早く良くなるようにと願いを込めていると、シアナはありがとうお姉さまと、微笑んだ。
その笑顔が側で見たくて、私はこうやって懸命に頑張っているの。私がいなくなったら、泣かせてしまう。シアナにはいつでも笑顔でいて欲しいのに。
シアナは私が側で見守りたい。なんの前触れもなく、いきなり関係を切るなんて、私にはできない。
エディアルドの美しい顔が契約を取り交わす、魔女のように見える。これ以上ないほどの魅力的な取引に、ゆっくりと首を横に振る。
「それはできないわ」
「そう、じゃあ、仕方ないね。勝負しよう、リゼット」
その勝負に私の拒否権はないように思えた。
そう簡単に私を帰す気はないということだ。それに、あなたから勝負を持ちかけるだなんて、私に勝ち目がないのでしょう? ――ずるい人。
それでも私は受けて立たなければいけない。一度でダメなら、何度でも挑んでやるわ。
ソファに腰かけるようにエディアルドに言われ、静かに従う。
「手を繋いで目を閉じて。五秒数えて目を開けたら、暗闇が広がっているから、ひたすら走って。ゴールは光。俺の精霊が追いかけるから、リゼットはそこまで逃げ切れればいい」
鬼ごっこなのか。相手が人間じゃないところがアレだけど……。でもやるしかない。
「捕まったら終わりね。そしたらリゼットはずっと、ここにいるんだ」
顔に浮かべる笑みはゾッとするほど美しかった。
エディアルドに指示されたとおりソファに横になり、目を閉じる。エディアルドはゆっくりと五秒、数え始めた。
すぐに意識が遠のくなかで、額に柔らかな感触を受けた気がした。
「おやすみリゼット。次に目覚めたら、君は一生俺のものだ――」
聞こえた声は気のせいだったのだろうか。確かめるすべもないまま、混沌とした世界に意識を落とした。