妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
 エディアルドが男になった? いや、違う、元から男だったが、男性として生きていくと決意したってこと?

 それに第三王子として認められたということは、王位継承権を得たということ。エディアルドの祖父はカーライル公爵なので、立場的にも申し分ない。

 だが、カーライル公爵はエディアルドが表に出ることを認めたのだろうか。
 小説とは違う展開に先が読めない。 

 エディアルドは堂々と立ち、周囲をぐるりと見まわす。

「このたび紹介にあった、エディアルド・カーライル・ロバール、この五大属性の精霊の加護をすべてのロバールの民のために使うと、ここに誓おう!」

 ワイングラスを大きく手に掲げた。

 周囲からは歓声が上がり、視線をその身に集めている。持って生まれた王者の気品なのか、皆の視線を引きつけてやまない。

 ふと国王から少し離れた場所で浮かない表情を浮かべているのは、王妃だ。
 王妃には息子が二人いて、どちらも精霊の加護はなく、ポッと出のエディアルドにこれだけ注目されては、そりゃあ、面白くはないだろう。それに王妃の息子、第一王子は気弱で覇気がなく、第二王子は軽薄で賭博などに溺れていると、もっぱらの噂だ。

 ――これは王宮に嵐が吹き荒れそうだ。

 嫌な予感がして身震いをした。
 苦い顔をしている王妃とその息子たちとは対照的に、華やかにスポットライトを浴びているエディアルド。

 その隣にはジェラールが控えているのも確認できた。彼は腹心としてエディアルドを支えていくのだろう。

 しかしエディアルドは、とんでもなく魅力的に成長したものだ。女の子の格好をしていた時から、美少女だとは思っていたが、男性になったら神々しいまでの美貌を周囲に見せつけている。

 小説では闇が多いヤンデレな様子だったが、華やかな表舞台を歩くのなら、きっと性格も変わったのだろう。小説のようなルートはたどらないと思えた。

 もしかして私が関わったことで、展開が変わってしまったのだろうか。だって、こんなルートはなかったもの。

 あと、一つだけ心配なことがある。杞憂かもしれないが、シアナのこと。

 小説の中であれだけ執着したのだから。今、二人は出会ってしまったら、また展開が変わってしまうかもしれない。それこそ、今世でもシアナに執着しないとは言い切れない。

 やはり、シアナとエディアルドは会わせないほうがいいだろう。

 エディアルドの周囲には早くも人が群がり始めている。貴族たちは第三王子がどんな人物が見極めようとしているのか、はたまた取り込もうと目論んでいるのか。ちゃっかりアリッサも近くにいて、彼の視界に入ろうと必死になっていた。さすが、行動の早いことで。

 なんにせよ、私には関係のないことだ。権力争いなどにも、巻き込まれるわけにはいかない。今日はシアナを連れて帰ろう。

 壁際から離れ、きらびやかな集団に背を向ける。ちょうど、ダンスの始まりを告げる音楽が流れ始めた。

 フッと広間を見ると、ぱっちりと目が合った――。エディアルドと。

 彼は周囲の人々に声をかけられているのも気にせず、その場を離れた。そしてあろうことか、こちらに向かって歩き出した。

 えっ、なになに!? どうしたの? まさか、私のもとへ向かっているとか、言わないわよね。

 エディアルドから真っすぐな視線を投げかけられ、思考が停止する。ただ黙って彼が近づいてくるのを、目を見開き固まっていた。

 やがてすぐ近く、手を伸ばせば容易に届く距離にまで来た。
 エディアルドは端正な顔立ちに、爽やかな微笑みを浮かべた。

「リゼット」

 私は返事をするべきなのだろうが、言葉が見つからず、ただ彼を見つめた。首元が視界に入ると、エディアルドの胸元を飾っているクラバットについている宝石は、緑色のエメラルドだと気づく。

 あれは――私がエディアルドに返した宝石かもしれない。私の瞳と同じ色だから一番気に入っていると言っていた――。

「踊ろう」

 サッと差し出された手を躊躇するが、皆が見守る中、取らないのは失礼だ。深々と頭を下げたあと、差し出された手を重ねた。

 途端、グッと強く手を握られたと思ったら、指を絡められた。
 エディアルドは膝をつき、私の左手の甲に口づけを落とす。

 真っ赤になった私に優しく微笑むと、立ち上がってリードして広間の中央へ移動した。
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