妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
 腰に回された手の大きさを意識しながらも顔を上げると、私を見つめるエディアルドがいた。唇をギュッと噛みしめ、口を開く。

「……エディアルド」

 その名を呼ぶと頬を緩めた。

「やっと名前を呼んでくれた」

 嬉しそうにはにかむけれど、私たちの別れは決して綺麗だったわけじゃない。どんな態度を取るべきか躊躇したが、もう二年前だ。すべて水に流せばいい。

「リゼット、俺のこと覚えている? 俺は忘れたことなんて、なかった」

 不意にエディアルドは腰を折り、私の耳元でそっとささやいた。

「会いたかった」

 腰に回された腕にギュッと力が入り、私は息を飲んだ。
 陽光をそのまま閉じ込めたかのような、きらめく金の髪。澄み渡る空をそのまま閉じ込めたかのような、青色の瞳。群衆の中に立つと、ひときわ目を引く堂々たる姿は、皆を魅了する。

 記憶の中の、無邪気に微笑む少女はそこにはおらず、どうみても立派な青年の姿に変化していた。

 どうしてこうなったのだろう――。

「絶対にもう、離さない」

 耳元でささやかれる情熱をふくんだ言葉に、心臓の鼓動がはねた。
 久々に会ったエディアルドは男性の姿になっていて、私は戸惑うばかりなのに、どうしてこんなにグイグイくるの。ダンスを踊りながらも、集中できない。

「それはそうと、リゼットは少し縮んだのか?」

 不思議そうに首を傾げるエディアルドに、呆れながらもつっこむ。

「逆よ、逆! あなたが大きくなったの!」

 昔は私より目線が下だったのに、今じゃ私より頭一つ分高い。長い手足に、広い肩幅。腰を支える大きな手に、男性だと実感せざるを得ない。

 エディアルドは口元を綻ばせ、笑顔を見せる。

「昔、ジェラールと踊っていただろう?」

 ハモンド家での舞踏会のことを言っているのだろう。

「その時、すごく嫌な気持ちになったんだ。なぜ、ジェラールと踊るんだろう、って」

 エディアルドは握りしめた手に力を込めた。

「俺――。ずっとこうやってリゼットと踊りたかったんだ。ジェラールとリゼットが踊っているのを見たときから」

 どうしよう、なんだか頬が熱くなってきて、心臓の音が激しい。エディアルドに聞こえているんじゃないかと心配になってきた時、一曲踊り終えた。エディアルドはそのまま二曲目に入ろうとしたけれど、私は静かに首を横に振った。

「今日はエディアルド様のお披露目なのに、私ばかりが独占するわけにはいきません」

 彼は今日の主役だ。私ばかりが独占していては悪いし、あらぬ噂をたてられてしまうのも避けたい。
 さきほどからダンスを踊っている横でアリッサがひどい形相でこちらをにらんでいるのに気づいていた。アリッサだけじゃない、他の女性たちからの視線も痛かった。

 ダンスの終わりの礼をして、なにかを言いかけたエディアルドから、早々に離れた。

 踊り終えてシアナを探すと、すぐに見つかった。むしろ、シアナの方から私に近づいてきた。

「お、お姉さま、どうしたの? なぜ、第三王子様と踊っていたの? すごい! お姉さま、出会いがあったじゃない!!」

 興奮気味なシアナをなだめるように、肩を叩く。

「そんなわけないわ。ちょっと疲れたから、バカなこと言ってないで帰るわよ」

 そそくさと帰ろうとシアナを急かしたてる。

「つれないな、リゼット。もう帰ってしまうなんて」

 背後からポンと肩に手を置かれ、驚いて振り返る。そこにいたのはエディアルドだった。

 ちょっ、おま、ついてきたんかい!?

 シアナは顔を真っ赤にして動揺している。エディアルドはシアナに向き合うと、微笑みかける。

「リゼットの妹、シアナ嬢だろう。リゼットからよく話を聞いていた」

 爽やかな笑みを浮かべるエディアルドにシアナは頬を染める。ついに出会ってしまった二人に、私がドキマギした。

 だが、予想と反して二人は簡単な挨拶のみを交わすと、エディアルドは私と向き合う。

「リゼット、帰るのか」
「えっ、えっ、ええ。失礼しますわ」

 ぐいぐいとくるエディアルドに強引に別れを告げると、シアナの手を引き会場をあとにした。
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