妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
 気づけば執事や使用人が、静かに見守っているが、恥ずかしすぎる。
 彼の腕から逃れ、距離を取る。

「来週の狩猟祭はリゼットも出席するだろう?」
「行く予定だけど……」

 この時期、狩猟祭が開催される。

 豊穣の女神に捧げるため、、腕に自信のある者は狩りに出て獲物を仕留めてくる。狩りに参加せずとも、男性が狩りに出ている間、美味しいお菓子や紅茶を囲みながら帰りを待っていた。
 毎年、父が参加していたから、シアナと共に帰りを待っていた。

「今年は俺も出るんだ。じゃあ、会場でまた会おう」

 にこにこと笑顔を見せるエディアルドに別れを告げ、馬車に乗り込んだ。

 エ、エディアルドってば――。どうしちゃったの。

 馬車に乗り込んだ途端、真っ赤になった顔を伏せた。
 男性としての人生を取り戻したのは、私のため、とか言ってたけど、正気なの!?
 私が介入したせいで大きくエディアルドの運命が狂ってしまったのだろうか。

 小説と違ってシアナには興味を示さないが、その分、私に執着している。おまけに私に浮いた話が出なかったのが、まさか指輪のせいだったなんて――。

 もしかして、私がエディアルドを振り切らなければ、一生このまま、出会いはなしということ!?

 あきらめて、責任を取れということなのだろうか。
 小説の展開とは別の方向にそれぞれが歩みだし、未来は誰にもわからない。
 私は馬車の中で頭を抱えた。

 ***

「お父さま、無理はしないで、頑張ってね」
「ああ、任せておけ。豊穣の女神も驚くぐらいの獲物を捧げないとな」
「まあ、毎年ウサギの一匹も獲れたことがないじゃないですか」

 毎年狩猟祭に参加している父を応援するため、私とシアナも会場に来ていた。
 開催場所はローデンコートの森だ。ここは王族が管理している土地で、年に一度、この祭りの時だけ解放される。
 緑に囲まれて、快晴の空に吹く風は、とても心地よい。

 貴族たちが出発準備を進める中、ふと第一王子であるケルビン様が登場した。王妃が隣に付き添っているが、浮かない顔をしている。

「第一王子のケルビン様、無理もない。あのお方は本を読むことを好む学者肌なのだから、狩りなどは苦手だろうに。第二王子に至っては賭博場に入り浸りで、行事に顔すら出す気がないようだ」
「だが、ここら辺で周囲に存在をアピールしておかねば、なぜなら――」

 貴族たちがヒソヒソと噂話をする中、背後から声がかかった。

「リゼット」

 そこにいたのはラフなシャツに弓を手にしたエディアルドだった。私に向かって笑顔で近づいてくると、シアナが父に耳打ちをした。

「エディアルド様だわ」
「なにっ!?」

 真っ先に父が反応し、深々と頭を下げる。

「エディアルド様、リゼットとシアナの父でございます。先日は我が娘、シアナのためにありがとうございました

 丁寧な礼を取る父にエディアルドは優しく手を差し伸べる。

「いえ、リゼットの大事な方なら、自分にとっても大事なので」

 にっこり微笑むエディアルドに父が目を丸くした。これはいけない雰囲気だ、それに周囲の人の目もある。

「おっ、お父さま! そろそろ出発の時ですわ、向こうに集まっていますわよ!!」

 早く行けと言わんばかりに、背中をグイグイと押した。
 エディアルドは笑っているが、あなたも早く行きなさいっていうの!

「リゼット、どんな獲物が欲しい?」

 首を傾げてくるが、獲物は豊穣の女神に捧げるはずだ。私自身はなにもいらないと告げた。

「欲がないな」

 笑いながらエディアルドも出発点を目指した。

「さっ、私たちはお茶して待っていましょう」

 シアナを誘って、テントが設置してある方向へ向かった。

「そろそろ戻ってくる頃かしらね」

 シアナと話し込んでいたが、顔を上げた。
 ポツポツと参加者たちが獲物を片手に戻ってきていたからだ。
 その時、遠くから歩いてくる父の姿を見つける。肩を落としてしょげているのが遠目からでもわかったので、私とシアナは顔を見合わせて笑う。

「今年もダメだったみたいね」
「そうね、残念ね」

 その背後から歩いてきたのは、エディアルドだった。彼もまた手に何も持っておらず、手ぶらだった。
 だが、よく目を凝らしてみるとシャツが鮮血に染まっている。

 まさかケガをしたの!? 

 驚いてすぐに立ち上がると、椅子がガタッと音を出した。
 不安になって凝視するが、彼はいつもと変わらぬ表情で、すたすたと歩いている。どこもケガした様子は見られない。

 まさか、あれは返り血を浴びたの?

 いったい、どんな獲物を仕留めたというのだろう。そもそもここは王族が管理している土地であり、危険な動物は生息していないはずだ。

 たまらず心配になり、エディアルドに近づこうとした。全身に返り血を浴びたエディアルドは私に気づき、顔を上げた。
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