妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
 不意に木々の間から赤い目が光る。

 姿を現したのは巨大な熊の姿をしていた。ただ一つ、熊と違うのは目が三つあったことだ。
 あれは寒い地域の山奥に住むという、魔獣だ。本でしか見たことがない。

 そんな、どうしてここにいるの? この森に魔獣など生息していないはずなのに!!

 それは木々の間から飛び出し、エディアルドの背中めがけ、鋭い爪を落とした。
 気づけば私は駆け出し、手のひらに力を込めていた。あまり大きくはない光の球を手のひらで作り出し、魔獣目がかけて投げつけた。

 魔獣の額にぶつかったと思ったら、まばゆい光を放ち、弾け飛んだ。魔獣は咆哮するとエディアルドに向かって突進していく。

 そこから先はスローモーションで見ているようだった。

 ゆっくりと振り返ったエディアルドが手のひらをかざすと、そこから鋭い風が巻き起こり、魔獣を切り刻んだ。一瞬にして絶命した魔獣はただの肉塊となり、地面に散らばる。

 あまりにも一瞬の出来事だったので、周囲の皆もあっけに取られている。

 これが五大属性の精霊の加護を持つ力……。
 今は風の力を使い、風力を増して襲い掛かり、刃となって切り刻んだのだ。

 エディアルドは私の前に立つと、フッと微笑む。

「リゼット、危ないから無理するな」
「そ、その血は……?」

 私が恐る恐るシャツを指さすと、エディアルドは頬についた血を手の甲で拭う。

「ああ、森の奥には同じ魔獣が三匹もいたから、片づけた」

 片づけたって、そんな簡単に言うけど!! 

「ご丁寧に俺だけを狙うように仕向けられていた。闇の加護の精霊に依頼して」

 クスッと笑うエディアルドは返り血を浴びても、なお美しい顔をゆがめて笑う。

「王妃も、すでに正気ではないのか。この場で魔獣を放つなど、嫉妬に狂って周りが見えなくなっている。どちらの精霊の力が強いかも、判断できなくなっているようだな」

 エディアルドはテントの中にいる王妃に真っすぐに視線を向けると、不敵な笑みを見せた。
 まるで悪役が浮かべるような笑みじゃない、ゾッとするほど美しく、魅入られそうになる。
 王妃は隠すことなく、エディアルドをにらんでいる。

「お、お母さま、ま、ま、魔獣です!! もっと、奥に潜んでいるかもしれません!! は、はやく逃げなくては……!!」

 第一王子のケルビン様は腰が抜けたのか、這いながら王妃に近づく。

「お、落ち着きなさい、ケルビン! あなたはこの国の第一王子なのですから、威厳ある姿を見せなさい!」

 王妃のいさめる声もケルビン様の耳には届かない。

 魔獣が奥に潜んでいるかもしれないという発言を聞き、周囲は震えあがった。

「皆の者、安心してくれ。森の奥にいた魔獣は三匹、俺が仕留めてきた」

 だが、それを一言で沈めたのはエディアルドだった。
 返り血を浴びながら堂々と立つ姿は威厳にあふれ、パニックを起こしそうだった周囲を沈めた。

「だから安心して、立ち上がりください。ケルビンお兄様」

 エディアルドは近づくと、ケルビン様に手を貸したが、エディアルドの返り血を浴びた姿に完全にすくみあがっている。尻もちをついたまま、後ろに這いずった。

「我が勇敢な息子、エディアルドに勝利の盃を送る!!」

 そんなケルビンを一瞥したあと、国王は立ち上がり、声を張り上げた。周囲は歓声と大きな拍手に包まれた。

「我々を救ってくださり、ありがとうございます!」
「さすが、五大属性の精霊の加護を持つお方だ!」

 皆がエディアルドを褒めたたえ、彼を囲んで人だかりができた。
 王妃がエディアルドに向ける眼差しが怖すぎて、直視できず、フッと視線を逸らす。

「本当、エディアルド様、素晴らしいお力ですわ」

 甘く媚びを含んだ声に聞き覚えがあり、静かに顔を向けると、そこにいたのはアリッサだった。
 ちゃっかりエディアルドの右手を両手で握っている姿が見え、ムッとする。
 アリッサはチャンスだとばかりに、しなを作り、エディアルドの側を陣取っている。
 エディアルドは口を真一文字に結び、無表情だ。喜んでいるのかさえ、わからない。
 そうこうしていると人が集まってきたので、熱狂した人の腕がぶつかり、押しのけられた。

「リゼット」

 一歩、離れようと背を向けたところで、声がかかる。
 ゆっくりと振り返る私を見つめ、エディアルドが口を開く。

「俺に礼を言うのなら、彼女にも。リゼットが勇敢にも最初に立ち向かい、光の精霊の加護を使ってくれたおかげで、魔獣の目くらましになった」

 私に向かって微笑む姿を見せたことで、周囲からが歓声があがる。

「おお、リゼット嬢も、よくやってくれた!」
「ありがとうございます、リゼット様」

 皆の勢いが私に向かってきたので、たじたじになる。

「リゼット」

 その時、エディアルドは私の名を呼び、ゆっくりと近づいてきた。周囲の人々はエディアルドが通る道を作り、その中心を歩いてくる。

 なにをする気かと思っていると、急に地面に膝をついた。

 神々しいほどの端正な顔立ちに輝く金の髪、今日の空のように爽やかな色を携えた瞳。
 彼はフッと微笑むと、胸元に手をやり、なにかを取り出した。あれはージュエリーボックス?
 いぶかしんでいる私の前に、ジュエリーボックスの蓋をパカッと開けた。
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