妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
「リゼット。先日、君に相応しい指輪を見つけたんだ。俺の気持ちと共に、受け取ってくれないだろうか?」

 ――は?

 いきなり、跪くエディアルドに混乱する。これってまるで、求婚みたいじゃない!!

「前にも贈った指輪も、ずっと身に着けていてくれたみたいで、嬉しいよ」

 いやっ、これ、抜けない細工をした本人がそれを言うの!?

 跪き、私を見上げる端正な顔、その表情は真剣そのものだ。

 一瞬、頬が赤くなったが、すぐさま青くなる。これだけの大勢に囲まれて、逃げ場がないと気づいたからだ。

「まあ、リゼット嬢の指輪は前々から話題になっていたけど、まさか相手が第三王子だったとは……」
「二人は昔から愛を育んでいたということ?」
「特別な箇所に指輪をつけていたのを不思議に思っていたけど、そういうことだったのね」

 ひそひそとささやく声に気が遠くなる。やっぱり噂になっていたのだと実感する。周囲は私の返答に目を輝かせながら、聞き耳をたてている。その中には父とシアナもいた。

 一方、アリッサは私を呪いそうな眼差しを向けている。
 こ、こんなに大勢では逃げられない、だけど、受け取ってしまったら、絶対に逃げることは不可能になる。

 そこで私は気づく。これは彼の策略だと。
 周囲から固めに固め、私を絶対に逃げられないようにしている。こうやって公開することで牽制もしている。

 第三王子をライバルにしたい男性など、いるわけがない。
 終わった、私の平穏ライフ。結婚したいのなら、この国から脱出するしかない。
 期待を込めた眼差しを送るエディアルドと対象に、絶望にたたずむ。

「エディアルド様、そんな高価な贈り物をいきなり差し出しては、令嬢がお困りでしょう」

 男らしい声が聞こえ、顔を向けるとそこにいたのはジェラールだった。

 良かった、天の助け! エディアルド劇場にこれ以上、付き合っていられない。

 エディアルドは肩をすくめると、しぶしぶと立ち上がる。

「仕方がない。では、二人の時に渡すとしよう」

 エディアルド劇場がいったん、幕を下ろした。

 ジェラールはエディアルドの側近として仕えていると聞いた。久しぶりに会ったジェラールは少し背も伸びて、元から好青年だったが、より爽やかになっていた。

「リゼット嬢、久しぶり、元気そうだね」
「ええ、おかげさまで、元気で過ごしております」

 私とジェラールの間にエディアルドがグイッと割り込む。

「リゼット、疲れただろう。向こうのテントの方で、少し休もう」

 腕をつかむと、そのまま強引にテントの方へ歩き出した。

「ちょっ、どうしたの?」
「ジェラール、あいつはダメだ。君と話している姿さえ、見たくない」

 なにを言っているんだ、自分の側近に。

 私は立ち止まり、エディアルドに向き合う。

「あなたこそ、疲れたでしょう? 魔獣を相手にしたのだから、疲れていないわけがないわ」

 精霊の加護の力を使用すると体力を消耗する。たった一つの光球を作り出しただけで、少し疲れたと思うのだから、彼はとんでもなく疲労しているはずだ。

 だが、エディアルドは包み込むような微笑を見せる。

「俺は全然大丈夫だ。精霊の加護をいくら使っても平気なんだ、俺」

 それは素晴らしい。やはり私とは桁違いの能力だ。

「リゼットの光の精霊の加護、見るのはこれで二度目だけど、とても温かい気持ちになった。俺を助けてくれてありがとう」
「別にお礼を言われるほどのことじゃあ……」

 私よりも数段格上の力を見せつけたくせに、面と向かってお礼を言われると照れてしまう。微力ながらお役に立てたなら、良かったわ。もっとも彼は私の助けがなくても大丈夫だったとは思うけど。

 だが、彼の笑顔を見ていると心の底から喜んでいると感じた。
 彼は自分に唯一ない光の精霊の加護だから、物珍しいのだろうか。

 そして、その日を境に第三王子はグリフ家の長女を溺愛していると、噂が駆け巡ったらしい。

 ……終わった。エディアルド劇場の舞台に立たないつもりが、いつの間にか登場させられていた。しかも主演女優として。この騒ぎが落ち着くまで、じっくりと息をひそめていようと思う。

 ***

「では行ってきます」

 今日、私は街へお買い物だ。正確には依頼していたドレスを受け取り、その足で装飾品を見て帰る段取りだ。

「シアナも一緒に行きましょう」
「私はいらないかな。お姉さまは行ってらっしゃい」

 姉妹で私だけ新調するのは気が引けると言うと、シアナは声に出して笑う。

「そんなこと気にしないで。今、お姉さまには大きなチャンスがきているの! グリフ家が一丸となって応援しているからね」

 ははは、そこに私の意見はどこにあるのだろう。
 シアナは私の乾いた笑みを見て、何かを感じ取ったようだ。

「……でも、お姉さまの気持ちが一番大事だからね」

 少し困ったように眉根を下げ、私を気遣う視線を投げる。

「うん。ありがとう。じゃあ、一緒に街へ――」
「いってらっしゃーい」

 誘ったシアナには断られ、仕方がないので一人で出かけた。
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