妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
「み、三つほどあれば嬉しわ」
「わかった、じゃあ、三つ選んでくれ」
エディアルドは私の肩を抱き、一緒にショーケースをのぞきこむ。
「ちょっと近いわ。もう少し離れて」
近すぎる距離に困惑するし、店員からの生温かい視線がどうにも居心地が悪い。
「なぜ?」
私の動揺を知ってて顔をのぞきこんでくるものだから、わからせてやりたくなる。
右ひじに力を込め、後方に引く。ドンッと鈍い音がして、エディアルドが小さくウッとうめいた。
手で脇腹を抑えながらうつむいているが、少しやりすぎたかしら。
「失礼、手が当たってしまったわ。これに懲りたら距離感考えてよね」
エディアルドは距離がおかしいと感じる時がある。昔から、べたべた引っ付いてくることが多かったが、前は女性の姿だったので、特に違和感もなく受け入れていた。
だが今は違う。立派な成人男性だ。これなら単に、人前でベタベタしているバカップルに見えるじゃないか。
悶絶するエディアルドを無視し、舞踏会で身に着ける予定のブルーの装飾品の他に、二つを選んだ。
***
街に出かけた数日後、思わぬ人から呼び出しがかかった。
私と父は急いで準備をして出かけた。
「急に呼び出して、申し訳なかったわね」
「いえ、帝国の光、王妃さまに呼ばれるなど、光栄でございます」
膝をつく父が頭を下げる後ろで、私もそれにならう。
王妃は扇で口元を隠し、ゆったりと微笑みを浮かべた。
「最近、第三王子の出現で王宮は騒がしくなっておりますが、グリフ家の忠誠は変わらぬこと、信じておりますよ」
「もちろんでございます、王妃さま。グリフ家はこの国の平和を一番に願っております」
社交界に派閥は存在するが、グリフ家は強いていえば、中立の立場だった。
「そう。リゼット嬢は光の精霊の加護をお持ちだとか」
王妃の目がスッと細くなり、私を値踏みする視線を投げる。
「その力はむやみやたらと使わず、王族のために使用するのでしょうね」
閉めた扇で私を差す王妃からは畏怖を感じ、逆らうことのできない威圧感がある。
「はい」
深々と頭を下げる私の顔色は青くなっていることだろう。
王妃はエディアルドが王位を狙っていると危惧し、それでいてグリフ家の私に釘をさしているのだ。
エディアルドが私に接近しているのも把握している。その上で、決して裏切るなよ、と圧をかけている。
そのために父だけじゃなく、私も呼ばれたのだ。
瞼をギュッと閉じ、運命に巻き込まれていく予感がした。
私はただ、家族と平和に暮らせたら、それだけで良かったのに。
そもそもエディアルドは王位を狙っているのかしら。周囲が勝手にかつぎあげ、盛り上がっているだけじゃないのだろうか。
エディアルドの本心は不明だが、彼と付き合っていれば王妃ににらまれる。だが彼は私に執着している。
どうすればいいのだろう――。
「リゼット嬢はおいくつかしら?」
「はい、十九になります」
この手の話題は嫌な予感がして身構える。王妃は微笑みを浮かべ、両手をパンッと叩いた。
「リゼット嬢にいい人を紹介したいわ。私の甥っ子はどうかしら? 年齢も三十五歳で、釣り合っているでしょう?」
十九の私からみて、三十五歳はとても年上だと思うぞ……! それに王妃の甥っ子といえば、ゾルバーク公爵で間違いないだろう。あの娼館通いが趣味で、一年中入り浸っているという噂の。
王妃は婚姻関係を持ち込んで、グリフ家を取り込もうとしている。
真の理由は、私の光の加護を危惧しているのだ。五大属性の精霊の加護を持つエディアルドに光の精霊が加われば、六大属性になる。すなわちそこで完璧になる。
王妃に盾突く気持ちはないと信じて欲しい。だから不本意な婚約などしたくない。
「どうかしら。次期国王の外戚の家系なら、グリフ家にとっても価値があることでしょう」
私が言葉に詰まっていると王妃は首を傾げる。
「では、もう一人の甥、シュナイデン家のランドルはどうでしょう? 令嬢と釣り合う年頃の男性がいたはずです」
シュナイデン家のランドル様は粗野で暴力的、舞踏会で酒を飲んでもめごとを起こす、有名人だ。
そろいもそろって、とんでもない相手ばかりを挙げてくるな~~!
私の顔が引きつっていると気づいた王妃は扇を口に当てた。
「まあ……リゼット嬢は理想が高いのね」
私が色よい返事をしないから、険悪な雰囲気が流れるが、どうにかして欲しい。
「私は、父と母みたいな恋愛結婚が理想なんです」
私を気遣う視線を投げながらも、王妃の前で余計な口を挟めない父を見る。
「もし、添い遂げてもいいと思える相手が現れなかったら、一生独身でもいいと思っています」
「まあ、それはさびしいことね」
王妃は扇をパッと広げた。
「人は考えが変わるもの。さびしくなった時には、もう遅いかもしれません。気が変わったら、すぐに連絡してきなさいね。あなたと縁を結べることを期待しているわよ、リゼット嬢」
扇の奥から見える目は決して笑ってはいない。
これは勝手に結婚するなよ、と告げている。
終わった……私は結婚すら自由ではなくなった。
その後、ご機嫌よろしくない王妃の相手をなんとかやり過ごし、帰宅した時にはぐったりと疲れていた。
「わかった、じゃあ、三つ選んでくれ」
エディアルドは私の肩を抱き、一緒にショーケースをのぞきこむ。
「ちょっと近いわ。もう少し離れて」
近すぎる距離に困惑するし、店員からの生温かい視線がどうにも居心地が悪い。
「なぜ?」
私の動揺を知ってて顔をのぞきこんでくるものだから、わからせてやりたくなる。
右ひじに力を込め、後方に引く。ドンッと鈍い音がして、エディアルドが小さくウッとうめいた。
手で脇腹を抑えながらうつむいているが、少しやりすぎたかしら。
「失礼、手が当たってしまったわ。これに懲りたら距離感考えてよね」
エディアルドは距離がおかしいと感じる時がある。昔から、べたべた引っ付いてくることが多かったが、前は女性の姿だったので、特に違和感もなく受け入れていた。
だが今は違う。立派な成人男性だ。これなら単に、人前でベタベタしているバカップルに見えるじゃないか。
悶絶するエディアルドを無視し、舞踏会で身に着ける予定のブルーの装飾品の他に、二つを選んだ。
***
街に出かけた数日後、思わぬ人から呼び出しがかかった。
私と父は急いで準備をして出かけた。
「急に呼び出して、申し訳なかったわね」
「いえ、帝国の光、王妃さまに呼ばれるなど、光栄でございます」
膝をつく父が頭を下げる後ろで、私もそれにならう。
王妃は扇で口元を隠し、ゆったりと微笑みを浮かべた。
「最近、第三王子の出現で王宮は騒がしくなっておりますが、グリフ家の忠誠は変わらぬこと、信じておりますよ」
「もちろんでございます、王妃さま。グリフ家はこの国の平和を一番に願っております」
社交界に派閥は存在するが、グリフ家は強いていえば、中立の立場だった。
「そう。リゼット嬢は光の精霊の加護をお持ちだとか」
王妃の目がスッと細くなり、私を値踏みする視線を投げる。
「その力はむやみやたらと使わず、王族のために使用するのでしょうね」
閉めた扇で私を差す王妃からは畏怖を感じ、逆らうことのできない威圧感がある。
「はい」
深々と頭を下げる私の顔色は青くなっていることだろう。
王妃はエディアルドが王位を狙っていると危惧し、それでいてグリフ家の私に釘をさしているのだ。
エディアルドが私に接近しているのも把握している。その上で、決して裏切るなよ、と圧をかけている。
そのために父だけじゃなく、私も呼ばれたのだ。
瞼をギュッと閉じ、運命に巻き込まれていく予感がした。
私はただ、家族と平和に暮らせたら、それだけで良かったのに。
そもそもエディアルドは王位を狙っているのかしら。周囲が勝手にかつぎあげ、盛り上がっているだけじゃないのだろうか。
エディアルドの本心は不明だが、彼と付き合っていれば王妃ににらまれる。だが彼は私に執着している。
どうすればいいのだろう――。
「リゼット嬢はおいくつかしら?」
「はい、十九になります」
この手の話題は嫌な予感がして身構える。王妃は微笑みを浮かべ、両手をパンッと叩いた。
「リゼット嬢にいい人を紹介したいわ。私の甥っ子はどうかしら? 年齢も三十五歳で、釣り合っているでしょう?」
十九の私からみて、三十五歳はとても年上だと思うぞ……! それに王妃の甥っ子といえば、ゾルバーク公爵で間違いないだろう。あの娼館通いが趣味で、一年中入り浸っているという噂の。
王妃は婚姻関係を持ち込んで、グリフ家を取り込もうとしている。
真の理由は、私の光の加護を危惧しているのだ。五大属性の精霊の加護を持つエディアルドに光の精霊が加われば、六大属性になる。すなわちそこで完璧になる。
王妃に盾突く気持ちはないと信じて欲しい。だから不本意な婚約などしたくない。
「どうかしら。次期国王の外戚の家系なら、グリフ家にとっても価値があることでしょう」
私が言葉に詰まっていると王妃は首を傾げる。
「では、もう一人の甥、シュナイデン家のランドルはどうでしょう? 令嬢と釣り合う年頃の男性がいたはずです」
シュナイデン家のランドル様は粗野で暴力的、舞踏会で酒を飲んでもめごとを起こす、有名人だ。
そろいもそろって、とんでもない相手ばかりを挙げてくるな~~!
私の顔が引きつっていると気づいた王妃は扇を口に当てた。
「まあ……リゼット嬢は理想が高いのね」
私が色よい返事をしないから、険悪な雰囲気が流れるが、どうにかして欲しい。
「私は、父と母みたいな恋愛結婚が理想なんです」
私を気遣う視線を投げながらも、王妃の前で余計な口を挟めない父を見る。
「もし、添い遂げてもいいと思える相手が現れなかったら、一生独身でもいいと思っています」
「まあ、それはさびしいことね」
王妃は扇をパッと広げた。
「人は考えが変わるもの。さびしくなった時には、もう遅いかもしれません。気が変わったら、すぐに連絡してきなさいね。あなたと縁を結べることを期待しているわよ、リゼット嬢」
扇の奥から見える目は決して笑ってはいない。
これは勝手に結婚するなよ、と告げている。
終わった……私は結婚すら自由ではなくなった。
その後、ご機嫌よろしくない王妃の相手をなんとかやり過ごし、帰宅した時にはぐったりと疲れていた。