妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
「待っていたんだ」

 そっと手を差し出す彼は、さきほどの表情からは考えられない笑みを向ける。

「……機嫌がいいのね」
「そりゃあ、さっきまではつまらないと思っていたけど、リゼットに出会えたから。ほかの奴らなんて、俺にとってどうでもいい」

 背筋が寒くなる台詞をあっさりと口にするエディアルドだが、彼は時折、ぞっとするほど冷たい態度を見せる。彼にとって興味がない対象とそうでない場合が、はっきりと線引きされている。

 上機嫌な彼を見上げ、目を瞬かせる。

「ねぇ、それって……」

 ごくりと息を飲み、彼の胸元に輝くブローチに視線を投げる。

「気づいた? この前、リゼットと街に行った時に、リゼットのイヤリングとおそろいで作ったんだ」

 私の耳元を飾る青のイヤリングにそっと指で触れる。

「ほら、これも双子コーデみたいじゃないか?」

 見る人が見たら、お揃いの装飾品を身に着けているとわかるだろう。

 頬を染めるエディアルドは、わざと周囲に知らしめているのだと思えた。――頭が痛くなってきた。
 
 扇で口元を隠し、こちらに視線を投げている王妃は、私を牽制している。

 ――決して裏切るなよ、と視線で圧をかけてくる。

 やめて欲しい、王妃ににらまれるのだけは避けたい。私が原作に介入しすぎてしまったせいなの。ズキズキと痛みが強くなる頭に顔をしかめた。

「リゼット……?」

 差し出された手をなかなか取ろうとしないことを不思議に思ったのだろう、エディアルドが声を出す。サッと視線を背け、風になびく髪を耳にかけた。

「ごめんなさい、今日は調子が悪いので、帰ります。エディアルド様は皆さんと楽しい時間をお過ごしください」

 この場から離れたいと強く願う。

 私をにらむアリッサも、牽制してくる王妃も、そんな視線を向けられるのは、まっぴらだ。
 なるべく平静を装いつつエディアルドに返答するが、頬は引きつっていたかもしれない。
 私はこの場を後にするべく、サッと踵を返した。
 途中、シアナに先に戻ることを告げると、シアナは友人に送ってもらうことになった。

 馬車の停留所を目指していると、背後から足音が聞こえる。

「リゼット、大丈夫か?」

 エディアルドが私の肩に手をかけ、顔をのぞきこむ。

「ちょっと頭が痛いだけ。少し休めば良くなるわ」
「顔色が悪い、俺もついていく」
「いいえ、大丈夫だから会場に戻って」

 そこまで面倒をかけられない。それに皆がエディアルドを囲みたいはずだ。だが私の意見を聞きそうにないエディアルドは肩を支え、強引に馬車までついてこようとする。

「いいから、離して。アリッサの相手でもしていればいいじゃない」

 自分でも驚くほど冷たい声が出ると同時に、エディアルドの手をはねのけた。

「……リゼット?」

 エディアルドは目を見開き、私を凝視した。

「もう、私のことなんて、放っておいてほしいの。構わないで!!」

 ああ、ダメだ、勢いづいてしまった、頭ではわかってはいるが、止まらない。

「どうして……」

 うつむいて唇をギュッと噛みしめる。頭が痛くて、正常を保てない。

「どうして戻ってきたの?」

 私は平穏な毎日がただ過ごしたかっただけ、それこそエディアルドから、シアナを守りたかっただけ。
 王妃に目をつけられるのも、権力争いに巻き込まれるのもごめんだ。

「あなたのせいで知人から嫌味を言われ王妃からも疎まれて……。私はただ平穏に暮らしたいだけ」

 大きくかぶりを振って、うつむいた。

「俺はただ――」

 その時地面に、ポタッと水滴が落ちた。雨が降り出したらしい。こんな天気なのに?

 顔を上げると口を真一文字に結び、静かに涙を流しているエディアルドがいた。
 はらはらと涙がとめどなく流れている。
 しまった、言い過ぎたと後悔した時は、もう遅かった。

「リゼットの前に堂々と立ちたかったんだ。本来の姿で」

 エディアルドは流れる涙もそのままに、真っすぐに立ち尽くす。

「俺が女のままじゃ、リゼットとずっと一緒にいられない、だからこそ、変わりたかった。当時、リゼットは俺と一緒にいて欲しいと願っても、首を縦に振らなかっただろう。だから考えたんだ、俺がリゼットと一緒にいればいいって――」
「エディアルド……」
「迷惑かけてすまなかった」

 ぽつりとつぶやくエディアルドに、きつい言葉を投げてしまったことを後悔する。だが、すべては遅かった。一度口に出した言葉はなかったことにはできない。

 流れる涙を自然に任せて隠す様子もなく、エディアルドはそのまま去った。私は立ち尽くし、背中をずっと見つめていた。
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