妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
「今日、私がここに来たのは、彼に謝ろうと思ったのです」

 ジェラールと話し込んでいる時、ふと視線を感じた。顔を横に向けると、エディアルドと目が合う。

 彼に謝らなきゃ――。

 駆け寄ろうとした時、エディアルドの腕に触れているアリッサに気づいた。アリッサは唇を引き締め、エディアルドの腕を強引に絡めた。

 エディアルドはその行動に眉をひそめることもなく、ただ私だけを見つめていた。

 あ……。

 近づいて声をかけようと思っていた勇気が急速にしぼんでいく。いつも私に向ける笑顔はなく、冷淡な視線を向けている。そこに私に対する関心はなく、距離を感じた。

 私を見下ろす姿に怖気づいてしまい、伸ばしかけた手を静かに下ろす。
 ジェラールは私とエディアルドの顔を交互に見つめ、耳打ちをした。

「いいのかい? エディアルド、行ってしまうが」

 それはわかっている、今がチャンスだって。

 でもあんな、私になんて興味ありません、って顔を向けられて、声をかける勇気がない。

 でも、エディアルドにあんな顔をさせたのは私なのだ。

 悩んでいる間にエディアルドとアリッサは並んで、私の前をスッと素通りした。もう、エディアルドは目も合わせない。アリッサだけは口の端を上げ、勝ち誇った笑みを見せていた。

 構わないでくれと言っておきながら、彼の態度に深く傷ついている、自分勝手な女だ、私は。今さら謝罪したところで、もう遅いかもしれない。

 エディアルドは大勢の前では凛として立っているが、私にだけは笑顔を向けていた。あの笑顔を向けられているのは、当たり前じゃなかったのだと知る。

 冷たい横顔が視界に入り、胸が締め付けられた。

「今日は帰ります」

 驚いた顔をしているジェラールに別れを告げ、さっさと退散した。
 自分でも驚くぐらい、ショックを受けた。そしてみじめだった。一刻も早く、この場から立ち去りたいと思い、会場をあとにした。

 舞踏会から早々に帰宅すると、湯を浴びたあとは部屋にこもった。

 自分が蒔いた種だというのに、こんなにもショックを受けている自分にも驚く。
 たとえ、彼が今後ずっと私を拒絶した態度をとったとしても、先日のことは謝らないといけない。そう思うと、今日の舞踏会で無理やりにでも近づけば良かったのだろうか。

 いや、無理だわ、あの眼差しを向けられたら、すくみあがってしまうわ。

 やはり、エディアルドが私に向けていた笑顔や優しさは当たり前じゃなかったんだと、実感する。けど、そんな彼があそこまで態度に出すということは、相当私の発言に傷ついたのだろう。

 私のために本来の性別で生きていくと誓ったと言っていた。それなのにあそこまで言われたら――。

 辛い思いをさせてしまった、深く傷つけてしまった。

 自覚があるからこそ、胸が痛む。それにアリッサと仲良くしていたけど、彼の隣はいつでも私がいると思っていたのか、ショックを受けた。

 私、つくづく勝手な奴じゃない? 傷つけておいて、エディアルドがほかの女性と仲良くしていると嫌な気分になるだなんて。シアナに言われた通り、私は甘えているの、エディアルドに……?

 それにこれは嫉妬? 私はもしかして、エディアルドのことが――。

 ベッドの中で寝がえりを打ちながら、唇をギュッと引きしめる。
 そっと左手を伸ばすと、薬指には指輪が光っている。
 
 これも返さないといけない時がきたのだろうな。次の女性に渡すだろう。
 考えていると、どんどん悲しくなってきて、涙がにじんだ。

 顔が見たい、そしてはやく直接謝りたい。こんなに期間を開けるべきではなかった。どんどん気まずくなっている。

「――会いたい、エディアルド」

 涙が一筋流れ、枕を濡らした――と思ったら、視界が反転した。

 いきなり体が浮き上がる不思議な感覚を感じた矢先、柔らかな場所にドスンと落下した。

「えっ……」

 目をぱちくりとさせ、煌びやかな金細工が施された高い天井を見つめる。
 ガラス張りの天井からは瞬く星の輝きが見えた。

 ここは私の部屋じゃない!! 

 目だけを動かすと、ふわふわの白いシーツが目の前にあった。ここ、どこのベッドよ!?

 ようやくガバッと上半身を起こす。

 視界に入るのは広い部屋、豪華な革張りのソファに、本のびっしり詰まった本棚。高級そうな調度品に囲まれているが、いったいどこよ!? だかしかし、見覚えがあるような――。

「リゼット」
「ひゃっ!!」

 いきなり背後から名を呼ばれた。気配に気づかなかったので、驚きで跳ね上がるぐらいの勢いで振り返った。
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