妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
「エ、エディアルド!?」

 そこにいたのは広いベッドでガウンを羽織り、本を手にしていたエディアルドだった。

「えっ、えっ、どうしてここにいるのよ!?」

 周囲を再度見まわすが、ここはエディアルドの部屋で間違いない。
 私の慌てぶりを見たエディアルドは最初目を丸くしたが、クスリと微笑む。

「それはこっちの台詞だと思うが」
「そっ、そうよね……!」

 いきなりエディアルドのベッドの上に落ちてきたなんて、これなんて現象だ。しかも私、ガウンも羽織っておらず、ネグリジェ姿だ。

「わ、私、こんな姿で……」
「気にするな。昔はよく見せあった仲じゃないか」

 だから誤解を招くような言い方するな、って何度も言っているでしょ。
 慌てまくって、まずはベッドから下りようとしたところで、シーツに足を取られ転んでしまう。

「リゼット、まずは落ち着け」

 逆にこの状況で冷静を保てる人っているの!?
 エディアルドは背後から私の腕をつかむと、ギュッと手繰り寄せた。

「――嬉しい。会いに来てくれたんだな」

 胸の下に腕が回され、背後からギュッと抱きしめられている。肩口にエディアルドは顔を埋め、くすぐったくて変な声が出そうになる。

 会いに来た覚えがないが、なぜか気づけばここにいる。これ、どんなからくりよ?
 混乱しつつも、いつも通りの態度のエディアルドにホッとした。

「ちょっと離して」

 私が手をペチペチと叩くと、ようやく腕の拘束が緩む。

「この状況を説明して欲しいのだけど」

 なぜ私はエディアルドのもとにいるの。それも一瞬で。

「ん? ああ、リゼットが望んだから」
「私がいつ?」
「俺のことを深く考えながら、名前を呼ぶとすぐに会えるよう、精霊の加護の力を指輪に込めておいた」
「なに、勝手なことしているの!」

 また私に黙って! そもそも、もっとタイミングが悪かったらどうするつもり? それこそ湯あみ中とか。せめて一言いっておいてくれ!

「でも、そう願ったのはリゼットだろう?」

 フッと微笑まれるが、私が一人反省会していたことを見透かされているようで、恥ずかしくなり視線を逸らす。

「やっと呼んでくれたな」

 視界が反転したと思ったら、押し倒されたのだと知る。
 私を組み敷き、見下ろすエディアルドの前髪の隙間から、欲望を宿した瞳が見える。

「リゼット……」

 私の両腕をつかむエディアルドはそのまま顔を下ろし、ゆっくりと近づいてくる。

「ちょっ、ちょっと……」

 首筋に顔を埋め、唇でなぞられると背筋がゾクゾクとして、体に力が入る。
 そのまま肩に吸い付くエディアルドの吐息がかかる。力で抑え込まれている状況に焦った。

「ストップ!!」

 私はエディアルドの後ろ頭から、髪をグッと引っ張った。反動でエディアルドの端正な顔が反り返った。

「あっ、あのね」

 エディアルドは私の言葉を無視し、再度覆い被さる。

 まずは話をしようとエディアルドを剥がしにかかるが、強い力で到底離れそうにない。それどころかぎゅうぎゅうと抱き着いて、締め付けてくる。

 私は観念し、しばらくの間、されるがままでいた。だが、薄いネグリジェ一枚なので、体温が伝わってくる。まるで直に触れられていようで、落ち着かなくなる。

 だが、私はホッとしている。舞踏会で会った時のような冷たい態度を取られなかったことに安堵しているのだ。

「あのね、そのままでいいから聞いて」

 お互い顔が見えないが、ちょうどいいと思えた。

「ひどい言葉で、傷つけてごめんね」

 会ったら色々言おうと思っていたけど、簡単な言葉しか出てこなかった。

 エディアルドは言葉の代わりなのだろう、腕の力がグッと強まった。それからしばらくそのままの体制でいたが、これはダメだ。私が止めないと、ずっとこのままのような気がしてきた。

 やがてエディアルドの手がサワサワと動きだし、私に触れ始めた。

「なにしているの?」
「なにって……リゼットが俺に会いたいと思ったということは、相思相愛じゃないか。なにも問題ない」

 あるわ、問題が大ありだわ!

「や、いいように解釈しないで」

 私はエディアルドの下から這いだし、指を突き付けた。

「仲直りをしたいと思ってきただけだから」

 エディアルドは口を尖らせた。

「雰囲気に流されろよ」
「流されません」

 断固として宣言し、エディアルドと見つめ合う。やがて最初に噴き出したのは、エディアルドの方だった。

「頑固だな、リゼット」

 頬を緩め、嬉しそうに微笑む。

「俺の方もリゼットの気持ちを考えずに突っ走った行動をとり、反省していたんだ。それだけは悪かった。もっとゆっくり距離を詰めるべきだったんだ」

 エディアルドを見ていると、小説の残酷さとは違うと感じる。物語のなかのエディアルドは相手の気持ちなどお構いなし、自分の欲望に忠実だった。

 だが、目の前にいる彼は、ちゃんと私を気遣って、優しい態度を見せる。やはり、変わったんだ、エディアルドも未来も。

 だったら私はこの先、今のエディアルドを見よう。小説とは別人だとわけて考えよう。
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