妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
第四章 対決
「はい、もう完治といってもよろしいでしょう」
「ありがとうございます」

 シアナのため、定期的に魔法治療師のマゴス先生が屋敷を訪問してくれていた。依頼主はもちろん、エディアルドだ。

「薬も飲まなくて良いでしょう。ただ、季節の変わり目は気をつけて」

 マゴス先生の診察結果を信じられない気持ちで聞く。

「夢みたい……。物心ついた時から、薬を手放せなかったから」

 シアナも手が震えるほど感動している。

「もう咳き込むことも、夜に発作が起きることもないわ」

 シアナと二人、手を取って喜びをわかちあう。

「ありがとう、お姉さま。お姉さまがずっと作ってくれた薬のおかげよ」
「私よりもマゴス先生の力が大きいわよ」

 マゴス先生を見送ると、シアナが悩ましい顔で相談を持ち掛ける。

「私、エディアルド様になんのお礼をしようかしら」
「そうね……」

 エディアルドは見返りを求めていないと思うが、それではこっちの気が済まない。

「なんでも持っているお方だと思うの。地位も財産も。それこそ、欲しいものはすべて手にしているんじゃないかしら」
「そうね、なんでも持っているかもね!」
 
 シアナは抱きしめたクッションから顔を上げる。

「――あ、わかったかも。エディアルド様の欲しいもの……」

 シアナはつぶやくとスッと立ち上がる。

「私、今から腕によりをかけて、パイを作るわ。チェリーパイ。お姉さまも手伝ってくれない?」
「別にいいけど、甘い物でも欲しくなったの?」

 いきなりお菓子作りに誘われたが、嬉しくなって張り切る。

 シアナは屋敷でおとなしくしている日々が多かったのもあり、お菓子作りにはまっていた時期があった。そのおかげで、腕前も超一流だ。

「ううん。作ったらエディアルド様に持って行って欲しいの。召し上がるかどうかはわからないけれど、どうせだったら私が得意なものを差し上げた方がいいし」
「そうね、わかったわ」

 私はシアナの助手として張り切った。
 
 そして翌日、エディアルドの屋敷を訪ねることになった。

 封書で連絡をしたら、いつでも歓迎すると書かれていたので、さっそく訪ねることにした。感謝を伝えるのなら、早い方がいいだろう。

「本当に一緒に行かない?」

 シアナに声をかけるが、静かに首を横に振る。

「ううん。エディアルド様もお姉さま一人の方が喜ぶはずだから。それ含めてのお礼だから」

 苦笑するシアナにすぐさま反応した。

「そ、そんなことないわよ」
「お姉さまは、どう思っているの、エディアルド様のこと」

 シアナはジッと私の顔を見つめながら、口にする。

「私、エディアルド様とお姉さまの間になにがあったのか知らないけれど――。普通の友人ではないわよね? エディアルド様はお姉さまのこと、気に入っていると思うし。お姉さまはどう思っているの?」

 さすが血を分けた妹なだけあって、聞きたいことはグイグイくる。

「そりゃあ……嫌いじゃないけど……」

 言えない、本当はシアナを監禁し、私を抹殺した悪役だったなんて。私が介入したせいで運命は大きく変わり、私に執着するようになったことは。

「煮え切らないなぁ」

 シアナはそう言って笑う。

「でもまあ、エディアルド様はお姉さまを離す気がないだろうし、その間は出会いもないだろうね」

 怖いことを言うな~!

 シアナは呑気に笑いながらも出来上がったパイを丁寧に包み、私に手渡した。

 ***

「お待ちしておりました、リゼット様」

 カーライル公爵家を訪ねると、使用人一同がずらりとエントランスフロアに列をなしていた。執事長と思われる初老の男性が深々と頭を下げると、皆がそれに習った。

「あっ、どっ、どうも」

 挙動不審になるのは、私が慣れていないからだ。執事長は早速私を客間に案内する。
 ソファに腰かけてしばらくすると、ノックと共に扉が開く。
 姿を現したのはエディアルドだった。彼はふわりと微笑むと、私の前に腰を下ろす。
 運ばれてきた紅茶と、とりとめのない雑談から入る。しばらくするとエディアルドが切り出した。

「それでリゼット、話とは?」
「あっ、うん――」

 私は膝の上に置いていた、小さな包みを差し出す。

「昨日、魔法治療師のマゴス先生の診察をシアナが受けたの。そしたらシアナの病は完治したと言われたわ」
「それは良かった」

 足を組むエディアルドは紅茶のカップを口につけ、柔らかく微笑む。

「だから、あなたに感謝の気持ちを伝えたいと、妹と一緒にパイを作ったの」

 テーブルに置いたパイの箱を、スッとエディアルドの前に置く。

「お口にあうかわからないけど、シアナの作るお菓子は絶品よ。あの子、あなたになにを贈り物をしていいのか、悩んでいたわ。だから、自分が一番得意なパイにしたみたい」
「それは、ありがたい」
「きっと見返りなんて考えてないと、言ったんだけどね」

 ふとエディアルドの顔が弾かれ、真っすぐに私を見つめた。ゆっくりとカップをテーブルに置くと、両手を組んだ。

「見返りを求めていない? そんな高尚な人間なわけがないだろう、俺が」

 えっ、もしかして、なにか目的があったとでもいうの?

 エディアルドは肩を揺らし、鼻でフッと笑う。
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