妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
 その後、ようやく解放された時には、もうヘロヘロになっていた。

「おかしいな、そんなに疲れたか」

 執拗に私の唇を求めたあなたがそれを言う?
 ええ、おかげさまで、私の体力ゲージは振り切ってゼロよ。

「これなら夜を過ごしたら、どうなってしまうんだろうな?」

 私の髪をひと房手にし、フフッと笑いながら口づけを落とすエディアルド。色気が駄々もれている。夜を過ごしたら……って。嫌でも想像してしまうが、思考を振り払う。

「ええ、そうね。過激な蹴りをお見舞いすることでしょうね」

 私の軽口もエディアルドは楽しそうに笑う。
 ひとしきり笑うと、私の手をギュッと握りしめた。

「リゼット」
「なによ」

 改まって呼ばれ、視線を合わせる。

「好きだ」

 突然の告白に、しどろもどろになる。

「そ、それはどうも……」
「リゼットは? リゼットの気持ちが知りたい」

 私はさきほどの口づけを思い出す。だけど、嫌じゃなかった。ほかの人とを想像しただけで、身震いがするのに。考え込んでいると、エディアルドは私の頭を優しくなでる。

「まあ、いいさ。どうせ俺からは逃げられない。逃がさないのだから」

 たがエディアルドは、時折サラッと執着心強めなことを口にする。なので、抗ってみたくなる。

「じゃあ、逃げたらどうするの? 例えば隣国とか」

 エディアルドは顔を斜めにし、肩をすくめた。

「探す。どんな手を使ってでも。それこそ、普段は抑えている五大属性の精霊の加護をフルで活用してやる。もし仮に男が一緒にいたなら、そいつを永遠の闇に落とし、死してなお苦しませる」

 ひっ、ひぇぇぇ。わ、私、そこまで言ってないよ!
 ダメだ、ヤンデレ執着を呼び覚ますような発言は控えるべきだ。

「そ、そんなわけないでしょ。私はこのせいで、男性が近寄っても来ないのだから」

 エディアルドの目前に、薬指に光る指輪を突き付けた。

「本当に、いい仕事をしてくれるな、母の形見は」

 にっこり笑うエディアルドだが、そんな大事な指輪なら、しまっておけといいたい。

「もう、帰るわ」

 立ち上がったところを、エディアルドは腰に腕を回し、再度ソファに引きずり倒す。

「ちょっと!」
「じゃあ、これがさよならの口づけだ」

 そしてまたまた深い口づけを受けるが、エディアルドはよほど嬉しかったようで、執拗に繰り返す。

 だが、拒まない私も私なんだよな。

 情熱的な口づけに頭がポーッとなりながら、考えた。
 
 ***

 数日後、シアナと街へ買い物に来ていた。姉妹での買い物は本当にいい気晴らしになる。
 馬車に乗り、帰路に着いた時、急に馬車の歩みがゆっくりになる。

「どうしたのかしら?」

 怪しんで窓の外を見るが、真っ黒な靄がかかったような状態だった。
 さっきまで晴れていたのに雷雨でもくるのかしら? だったら、早く屋敷に戻らないと。
 馬車がゆっくりと停車したことが気になり、窓から顔を出す。

「お、お姉さま……!」

 その時、ゆらゆらと黒い影のようなものが、窓から侵入してきた。それは物体といえど、意識を持っているように思えた。

 直感が働き、あの黒い影は危険だと本能が告げている。

「シアナ!」

 狭い馬車の中だがシアナを背後に庇い、黒い影と対峙する。
 すでに窓の外は真っ暗な霧に覆われ、昼だというのに、夜の闇の暗さだ。
 ゆらゆらと私に迫ってくる影を振り払いたくとも、実体がない。

 間違いない、この影の狙いは私だ……!

 馬車の扉を開け、シアナの背中を押し、彼女を外へ出す。

「お姉さま!!」
「早く逃げて!!」

 叫んだのと最後に影に包まれ、意識が遠のく。

 ああ、私、どうなってしまうのだろう――。

 その時、脳裏に浮かんだのはエディアルドだった。

 ***

 ううん……。

 頭が重くて、すっきりしない。

 瞼を開けると、そこは知らない部屋だった。驚いて起き上がろうとするも、身動きが取れない。
 視線を下げると、手足はロープで縛られ、拘束されていた。

「なに、これ……!」

 ベッドに投げられて、横になっている私。キョロキョロと周囲を確認するも、ここがどこなのか、ちっともわからない。

 縛られたロープは頑丈で、無理やり動かすと、手首にギリリとロープが食い込む。

 ここから逃げなきゃ。

 誰がなんの目的でここに連れてきたのか不明だが、この扱いをみるに、私に逃げられると困るのだ。命が目的だったらとっくに始末していると、自分で思ってゾッとした。

 なんの目的かは知らないけど、手段を選ばない強引さに背筋が寒くなる。

 このまま大人しくなんて、していられない――!!

 私はロープを口元へ持っていくと、ガジガジと嚙み始めた。私の歯をなめてもらっちゃ、困るわね。今まで虫歯一本もできていないのは、今日この日のためだったのかもしれない。
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