妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
 しばらくガジガジと噛んでいたが、顎が痛くなってきた。だが、あきらめてなるものかと、噛み続けた。

「外れた……!」

 私の執念は恐るべし。一本のロープが切れたら、あとは連携で外れた。ロープの外れた手首には赤い跡がくっきりとついていた。そのまま足にはめられたロープも、なんとか手で外した。

 体の自由を取り戻したので、部屋の中を見回す。ごくりと息を飲み、耳を澄ますが、人の気配はない。

 いったい、ここはどこなのだろう。恐怖に包まれ、背中を冷たい汗が流れた。
 窓辺によって確認すると、運の悪いことに二階だった。
 一階だったのなら、そのまま窓から脱出したのに。

 覚悟を決め、扉をそっと開ける。廊下には誰もいなかった。
 どう考えても拉致されてきた私。知らない屋敷をあてずっぽうで歩き回る勇気は、なかなか出なかった。
 部屋に戻り、対策を練る。

 そうだ、エディアルドを呼び出そう! 私が強く念じると、エディアルドと瞬時に会えると聞いた。あの時のように、彼のもとへ行こう。

「エディアルド」

 必死に彼のことを考え、その名を口にするも、変化が見られなかった。
 ならば、せめてもの武器として、精霊の加護を使おう。手に加護の力を集めようとした時、はたと気づいた。

 精霊の加護の力が感じられない。手をまじまじと見つめるが、異変は起きなかった。

 これは、私が使えなくなったんじゃない。
 この屋敷全体が結界に包まれているのだ。

 これだけの立派な屋敷を結界で包むことができるのは、高貴な身分の方に違いない。

 まさか――。

「あら、リゼット嬢。もう目が覚めたのね」

 背後から声がかかり、体をびくりと震わせ振り返る。
 特に慌てるでもなく入室し、ゆったりと椅子に腰かける姿に恐れを抱く。

「お、王妃さま……」
「まったく、もっときつく縛っておけと言うべきだったわね」

 私は驚きに目を見開きつつも、警戒を緩めない。

「な、なぜ、私を――」
「リゼット、私は忠告したはず。決して寝返るなと」
「ね、寝返ってなどいません!」

 そもそも寝返るもなにも、中立の立場であるグリフ家だ。
 王妃がパシッと扇を閉めたと思ったら、私の足がなにかに触れた。

「ひっ……!」

 床から黒い手が出て、私の足が捕まれている。体制を崩し、その場で尻もちをつく。
 王妃はゆっくりと立ち上がると、私の顎に手を添え、上を向かせた。

「忠告しても無駄だと気づいたわ。てっとり早く、もらい受けることにしよう」

 まさか、それは私の命!?
 恐怖を感じ、目を見開く私に王妃は不敵に笑う。

「リゼット、光の精霊の加護を、わが息子に譲りなさい」

 精霊の加護は持ち主の意志で譲ることが可能だと聞いていたが、本当にそうなのだろうか。
 王妃に狙われていると知り、冷や汗をかく。

「あの私生児、やけにリゼットに執心だが、五大属性の精霊の加護と光の精霊の加護の力が一つになると、恐ろしいことになる。我が息子を差し置いてなど、到底許せるものではない」

 王妃はギリリと唇をかみしめた。

「国王はあの私生児に王位を譲ると戯言を言い出した、急がねば手遅れになる。あの私生児の好きにさせるわけにはいかない」

 王妃は忌々しいと言い、爪を噛む。

「そこでリゼット。あなたから光の精霊を差し出しなさい。精霊も加護の持ち主の言うことなら、聞くはず。だからこそ、その力、わが息子のために譲りなさい」

 王妃の全身から黒い霧のようなものが噴き出した。これは闇の精霊の力だ。

「意志と反して精霊の加護を無理やり外そうとすると、反発も起きると聞く。その命、ロバール国に捧げると思えば、光栄でしょうに」

 にんまりと笑う王妃に背筋がゾッとする。
 
 精霊の加護の力は生涯でただ一人、譲ることができる。でもそれは、精霊の加護を完璧に使いこなし、精霊の声が聞こえ、意志疎通ができる場合のみと聞いたことがある。

 私は光の精霊の加護を持つけれど、全然使いこなせていないの!

 つまり、今の私から無理やり精霊の加護を引き離そうとしたら、魂が反発を起こす、絶対に!! すなわちそれは、私の死を意味する。

「お待ちください、王妃さま!」

 時間稼ぎしようと声を張り上げると、王妃の眉がピクリと動く。

「エディアルドに確認したのですか? 彼は王位を狙ってなどいないと思います!」
「はっ、本人の意思など、今さら聞いてどうするの? 周囲に担がれ、すでにその気になっているかもしれない。そもそも、我が息子を差し置いて国王になろうなど、許せない。あの忌々しいイザベラーナの息子め」

 王妃は遠い記憶を思い出すように、顔をゆがめた。

「死ぬ前に私生児を産み落としていたとは……。死産と聞き、手間が省けたと喜んでいたが、まさかカーライル家が巧妙に隠していたとは。こんなことなら、始末しておけばよかった。あの女と共に」

 その発言を聞き、ゾッとする。もしかしてエディアルドの母が若くして亡くなったのは――。
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