妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
 停留所に馬車を止め、目指すのは薬草士のいる店だった。大きな街に薬草士は必ず在中している。
 私はお目当ての店を見つけると、薬草を焙煎するための道具や、薬草を詰める瓶などを買い込んだ。

「ありがとうございました」

 店員に見送られ外に出ると、扉についていたベルがカランコロンと鳴り響いた。
 街は人々が行きかい、にぎわいを見せている。
 どこからかパンが焼けた香ばしい香りが漂い、鼻をスンと鳴らした。

 私がこの街にきた目的はもう一つあった。それはこの街で有名なスイーツの店、ロレーヌ。フルーツをたっぷり使ったパイや、クリームをふんだんに盛りつけているケーキがあると聞く。甘いクリームが大好きなので、さっそくお目当てのロレーヌへと、足を運ぶ。

 店内は大賑わいで、しかも品数も購入制限があった。本当は全種類食べてみたいけれど、これだけの有名店だもの、仕方がない。

 列に並んで、クリームがたっぷりのっていたケーキを、私とシアナの分を購入した。シアナも甘いものが大好きだから、喜んでくれるかしら?

 いそいそとカゴにしまったあとは、少しだけ街を散策して帰ろうか。ご機嫌になって街並みを歩く。

 やがて店がなくなってきた街の外れまで来た。
 そろそろ戻ろうとしたところで、ふと人の集団がいることに気づく。

 あれは――女の子?

 一目で上等だとわかる深い青色に、裾に細やかな刺繍が入っているワンピースを着用していた。フードを被っていたが、長い髪が出ていたので、女性だと思った。そして男三人が取り囲むようにしている。

 男の方はというと、お世辞にも身なりがいいとは言えなかった。胸元を大きく開き、着崩れしているシャツにズボン。顔をにやつかせ、フードの中をのぞき込み、何か話している。

 フードを被った女性は壁に背を向けて立っている。男は壁に手をついて、女性を取り囲んでいた。

 あれじゃあ、逃げ道はないだろう。

 女性の顔は見えないから、状況はよくわからないが、どう見ても不釣り合いな組み合わせだ。
 ここで声をかけるべきか足を止め、私は迷った。タイミングが悪いことに、周囲は私以外の姿は見えなかった。

 注意深く見守っていると、男が女の子の手首をつかんだ。フード越しだが、相手は首を横に振ったのがわかる。あれは拒否の姿勢だ。

 そのまま建物の間にある小道に手を引っ張り、連れて行こうとしたのが見えた。あれは引きずり込もうとしている!

「――なにをやっているの」

 そこで初めて声をかけた。

 私だって男三人を相手に、声をかけるのは勇気がいる。それに、もし私の勘違いだったらと思うと躊躇もしたが、後で後悔するよりもずっといい。

 大丈夫よ、私には最後の手段もあるのだから。
 自分に言い聞かせ、手をギュッと握りしめた。

 男たちはゆっくりと私の顔を見る。品がなく、しまりのない顔。私と同じ年頃の、明らかにならず者に見えた。

「あ?」

 私をバカにするような声を出した一人の男に、他の二人はあざ笑う。

「俺たち、楽しく遊ぼうと思っていたんだ。あんたも混じるか? 俺たちと仲良くしようぜ」

 下品な笑いを響かせる男たちに、身構える。

 その時、フードを被った子が私に視線を向けた。

 ――わ……すごく綺麗な子……!! 

 フードの隙間からこぼれる長い金の髪、快晴を思わせる青い瞳。白い肌に赤く色づいた唇。

 そしてその瞳は不安げに揺れ、私を見つめている。
 あんなに綺麗な子、初めて見たわ。まるで天使か妖精みたい。

 間違いない、絶対、彼らとは無関係だわ。

 私は勢いよく近づくと、男と彼女の間に割って入る。

「嫌がっているじゃない。やめてあげなさいよ」

 彼女をかばうようにして前に立つ。

「やめてあげなさいよ~、だってよ」

 私の声色を真似した男に後方の男たちはゲラゲラと下品な声を出す。

 ダメだ、相手にしていられない。
 小さくため息をつき、振り返る。

「大丈夫?」

 目が合った彼女は頬を赤く染め、うなずいた。私は彼女の手を取り、男たちを無視して歩きだした。

「おい、待てよ」

 肩に手がかけられた瞬間、ブワッと鳥肌が立ち、足を止める。

「どこ行くんだよ、俺たちが遊んでやるって言ってるんだよ」

 私は振り返ると、彼女を背に庇い、男と向き合う。

「結構よ。そんな無理やりなやり方では絶対無理。あなた、もてないでしょ」
「なにい!?」

 相手は図星だったようで、瞬時に顔が真っ赤になり、目を釣り上げた。
< 6 / 63 >

この作品をシェア

pagetop