妹を監禁するはずの悪役から、なぜか溺愛執着されています
 エディアルドは二つ身分があった。

 一つは、公爵家で本来の生をうけたエディアルド・カーライル、隠された存在。
 だが、今はエディア・ハモンドと名乗り、身分と性別を偽っていた。

 王都から脱出できたことで、絶対に会わないと思い込んでいた。完璧に油断していた!!

「さあ、帰りましょう。ジェラール様も心配しております」
 
 ジェラール……!

 その名前を聞き、肩がビクリと揺れた。
 ジェラール・ハモンドはエディアルドの世話役だ。

 年齢は私より二歳上のハモンド家の人間。ハモンド家はカーライル家の傘下にあたる。ジェラールは小説の中でもエディアルドに振り回され、従僕のような扱いを受けていた。それは変わっていないのね。だったらなおのこと、関わってはいけない――。

 私の本能が危険を察知し、一歩、後ずさる。

「失礼ですが、お名前をうかがってもよろしいでしょうか?」

 エディアルドの護衛の騎士が私に顔を向けた。ここで名乗ってはいけない、大変なことになる……!

「いえ、名乗るほどではございません!」

 精いっぱい微笑みを浮かべるが、顔は引きつっていたと思う。
 ずりずりと後ずさり、十分な距離を取る。

「では、私は急ぐので失礼します」

 ぺこりと頭を下げるやいなや、一目散にその場から逃げ出した。
 去り際にエディアルドがなにかを言いかけて手を伸ばしたが、気づかないふりをした。

 嘘でしょうぅぅぅ!! なんで、よりによって街にいるんだ、エディアルド!

 大人しく王都にいなさいよ、私たち、せっかく別荘にきたのに!

 ウィークスの別荘に来て、たった一日で絶望を抱いた瞬間だった。

 ***

「じゃあ、行ってくるわね」
「行ってらっしゃい」

 別荘に到着して一週間、あれからは街へ行っていない。
 森にシアナのための薬草採取に来ている。

 自然の宝庫なだけあって、たくさん自生しているので、摘んでは持ち帰り、調合していた。

 採取した薬草を水で洗い、細かく刻み、天日干しにしてから焙煎する。瓶に詰めたあとは精霊の加護の力を込める。そしてシアナは毎日三回、薬草を煮出して飲んでいた。

 はっきりとした効果はまだわからないけれど、ここにきて一度も寝込んでいないので、きっと良い方向へ向かっているはずだ。 
 私は森の一角に柵を設置して、この中で薬草を栽培すると決めた。
 土の栄養もたっぷりなのか、摘んでも自生してくる薬草。やはり、ここは自然に恵まれた土地だ。

 今度、シアナもここへ連れてこようか。そして一緒に薬草摘みでもして、適度に体を動かした方がいいだろう。

 本当は街へ連れて行ってあげたいけど……。

 先日の出来事が脳裏に浮かぶ。
 あれから自分なりに調べてみたら、ウィークスの地は別荘に適しているらしく、ここに別荘を持つ貴族が多いのだとか。
 
 エディアルドだって別荘に来ている可能性が、頭をかすりもしなかったなんて、自分の単細胞を恨む。

 でも幸いなことに、シアナはエディアルドと会っていない。それに私、名乗らなかったし!! 
 きっと今頃、忘れているはずだわ。うんうん、良いように考えよう。

 逃げるように走り去ってしまったけれど、最後、なにかを言いかけたエディアルドが気になるといえば、気になるけど。考えても仕方ないし。

 あっちも今頃、別荘で楽しく暮らし、私のことなど忘れているはずだわ。
 私は一人で勝手に納得し、今日の採取した薬草を籠につめ、別荘に戻った。

 ***

 あれ……。なんだか騒がしい気がする。

 別荘に近づくにつれ、異変を感じ取った。いつもは静かな周辺が、人の気配が感じられる。

 まさか――シアナは!?

 私の大事な妹になにかあったのかと思い、走って別荘に戻る。途中、カゴを落としてしまったが、それどころじゃなかった。
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