20年越しのごめんだけじゃ物足りない~幼なじみの執愛が溢れだす

15 モデラー

 十一月四日火曜日。
 平日の日中は土日の喧騒が嘘のように感じるほど穏やかだ。
 商品の入荷もなく、言ってしまえば暇な時間。
 お昼を食べたあとの一時過ぎ、私はガチャガチャコーナーのところにあるレジに立ち、ラッピング用紙を折って袋を作っていた。
 このフロアにはセルフのラッピングコーナーがあって、ラッピング用紙やリボンが置かれている。
 でも皆がラッピングできるわけではないから、楽にラッピングできるようにと、ラッピング用紙で紙袋を作って置いている。
 こんな作業、前の売り場では考えられない。
 そもそもレジスタッフはレジしかしてはいけなかったし、もっと殺伐とした空気が流れていた。
 でもここ、エンタメフロアは社員だろうがパートだろうが関係なく何でもやる。
 レジ、接客案内、予約対応、品出し、電話取次。
 絶対すること多いでしょここ。
 バイトも皆、同じことしてるし驚くことが多すぎる。
 この袋の作り方を教えてくれたのもバイトさんだった。
 私がラッピング用紙を折っていると、女性から声がかかった。

「すみませーん、ガチャガチャ出てこないんですけど」

「は、はい。少々お待ちください」

 私は鍵を持って、お客さんのところに向かう。
 鍵をあけて、異常がないか確認するけど、よくわからない。
 とりあえず詰まっていたお金を数えて渡し、もとに戻してもう一度、お金を入れてもらう。
 今度はちゃんとお金が入って、ダイヤルがガチャガチャと音をたてて回る。
 でてきたカプセルを手にしたその女性は、私の方を見て、

「ありがとうございます」

 と、笑顔で言った。
 ありがとう、と言われるのは心地良い。
 レジに戻る途中、今度は男性から声がかかる。

「すみません、商品のことで伺いたいんですが」

 振り返ると、四十代と思われる、カゴを手に下げた男性がこちらの様子を伺うように立っていた。
 無地のパーカーにジーパンを着た、普通っぽい感じのこぎれいな男性だ。
 なんだろう。
 私は笑顔を作り、

「はい、何でしょう?」

 と答える。
 そのお客さんは、塗料があるコーナーの方へと顔を向けて言った。

「あのー、ガイアの大きいうすめ液、今ないんですけどいつ入るかってわかりますか?」

 ガイア、うすめ液。
 内心焦りつつ、私は男性の持つカゴを見る。
 するとそこには塗料がたくさん入っていた。

「えーと、塗料関係ってことですか?」

 たしかガイアノーツがどうのって赤月君が言っていたし、売り場周ったとき、ガイアカラーていう塗料ややたら大きい液体の商品、あったっけ。
 男性客は、こちらを見ると頷き答えた。

「そうですそうです。今全然なくて」
 
 それを聞いて、私は鬼頭さんや他のスタッフから教わった言葉を口にする。

「すみません、入荷は未定になります」

 これは魔法の言葉。
 おもちゃもゲームもプラモも全部、いつ入るか聞かれたらこう答えるように、と教わった。
 実際、いつなにが入荷するか本当にわからないらしいから嘘はない。
 そんな私の答えに、男性は、そうですか、と残念そうに呟く。

「申し訳ございません」

 と、頭を下げてレジに戻ろうとすると、再び声をかけられた。

「あの、すみません、注文とかってできますか?」

 私は振り返り、再び頭を下げる。

「申し訳ございません、注文は承ってないです」

 そう答えるとさらにそのお客さんは残念そうな顔になる。
 鬼頭さんからは、塗料とかは注文うけないで、と言われたからそれでいいんだろうけれど、お客さんの残念そうな顔をみると少し心が痛む。
 これが黒物家電ならレジで発注してとかできることがあるのに、おもちゃはそう簡単にはいかないらしい。
 うーん、もどかしい。
 そのお客さんは、私の胸元の名札をちらっと見て言った。

「珍しい名字ですね」

「あ、あぁ、よくいわれます」

 名札に書かれた「せんごく」の文字。
 確かに仙石って名字は珍しい。親族以外で見たことがないし、レジにいるとたまに言われる。
 お客さんは私の顔を見て首を傾げて言った。

「あの……店員さん、今まで見たことないですけど最近ここにきたんですか?」

 ずいぶんと話しかけてくる人だな、と思いつつ、私は笑顔を張り付けて答える。

「そうですね。先月からこちらに配属されました」

「女性の社員さん、珍しいから……」

 そう言いながらそのお客さんは私の名札と顔を交互に見る。
 その様子が何かこう、嫌な感じがして寒気が走る。
 なんだろう、この感じ。
 それでも私は愛想笑いを張り付けて答えた。

「そうなんですか?」

「俺、ここができた二十年前から通ってますけど、あんまり見たことないですね。あと、人の入れ替わり激しいし、すぐいなくなるし」
 
 そうお客さんは早口でまくしたてる。
 そ、そ、そこまで……?
 まあ私がここに異動になった理由が、社員がひとりしかいなくて、誰に声かけても断られたから、だったけど。
 そういえばなんで皆、異動嫌がったんだろう。微妙に田舎だからかな。
 鬼頭さんに聞いたら教えてくれるだろうか。
 私が微妙な顔になったのに気がついたのか、お客さんはブンブンと首を横に振る。

「す、すみません、変なこと言って。あ、ありがとうございました」

 と、慌てた様子で頭を下げて去っていく。
 なんだか変なお客さんだったな。
 その背中を見送り、

「私、ここでやっていけるのかな……」

 と、思わず呟いた。
 
 
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