20年越しのごめんだけじゃ物足りない~幼なじみの執愛が溢れだす

17 赤月君に会いに

 十一月六日木曜日。
 赤月君と会う日が来た。
 十一月に入ってすっかり寒さが増してきて、町を冷えた風が包んでいる。
 約束の時間は十一時。
 場所は赤月君のマンションの前だ。
 家の場所が近いのだからわざわざ駅で待ち合わせる理由はない、ということでそうなった。
 今日も行くのは駅前だ。
 てっきり車でどこかに行くのかと身構えたけれど、そうはならなくて内心ほっとしている。
 ふたりきりの車内とか、想像するとどうしたらいいのかわからなくなってしまうからだ。
 幸い、駅前にはまだ行っていない場所がある。
 私は約束の時間の少し前に、赤月君のマンションの前にたどり着く。
 何階建だろう。
 私は大きなマンションを見上げる。ここの何階に住んでいるのかは、まだ聞いていない。
 赤月君はセナ、なのかな。それとも私の考えすぎなのか。
 赤月君のことは子供のころから知っているはずなのに、何にも知らないことが異様に思えた。
 そんなことを思いながらマンションを見上げていると、赤月君が入り口から現れる。
 まるで私がいつ着くのかわかっていたみたいに。
 私と目が合った赤月君は、にこやかに笑って私に手を振ってくる。

「おはよう、ヒスイちゃん」

「お、おはよう、赤月君」

 おはよう、の声を聞いて私はセナの配信を思い出す。
 見た目も似ているし、でもそんなの寄せることはいくらでもできる。
 思わず赤月君の顔をまじまじと見つめていると、彼はにやっと笑ってズボンのポケットに手を突っ込んで言った。

「そんなに俺の顔見て、どうかしたの?」

「え? あ、えーと……」

 言葉を切って、私は下を俯き目を泳がせる。
 セナ=ジェイドの事を聞いても大丈夫、かな。
 うーん……それくらいはいい……よ、ね?
 そう自分に言い聞かせて私はゆっくりと顔を上げて、小さく首を傾げて言った。

「あのね、職場の人からVチューバーのこと教えてもらって。その、セナ=ジェイドっていう。赤月君になんか似てるなっと思って」

 そして私は、心のなかに生まれた緊張感を誤魔化すように笑顔を貼り付ける。
 すると赤月君は、ぱっと嬉しそうな顔になり笑って言った。

「えぇ、うそ、まじで」

「うん。なんていうか髪の白いメッシュとか……喋り方とか声が似ているなって思って」

「あはは、ありがとうヒスイちゃん。だってそれ俺だもん」

 私が思っていたよりもあっけなく、しかもさらっと、当たり前のように、赤月君は言って自分を指差した。
 私は大きく目を開いて赤月君を見つめる。
 今なんて言いました?
 だって、それって俺だもん。
 そう、確かに赤月君は言った。
 
「え……あ……え?」

 私は何を言っていいのかわからなくて、変な声が漏れてしまう。
 この間ははぐらかしていたのに、あっさり認めるなんて。
 赤月君はスマホをとりだして操作する。彼はスマホ画面を私の方に見せてきて、

「ほら」

 と、とてもいい笑顔で言った。
 それはSNSの画面だった。
 アプリを開いてすぐ出てくる画面で、左上にアイコンが表示されている。
 そのアイコンは間違いなくセナ=ジェイドのものだった。
 それはログインしている本人しか見られない画面だ。
 
「ほ、ほ、ほ……ほんとに?」

 私はそのスマホ画面と赤月君の顔を交互に見る。やっぱり似ている。まるで本人をモデルにしたかのようなアバターだ。

「まさか、ヒスイちゃんがそんな速攻で見つけ出すなんて思わなかった。嬉しいなぁ、俺の事見つけてくれるなんて」

「わ、私も驚きなんだけど? だってなんでVチューバーなんて」

 そんな私の問に、赤月君は自分の口に指を当てて、

「まだ秘密」

 と、笑みを浮かべる。
 その笑みがすごく幸せそうに見えてなんだか違和感だった。
 私に見つけられて喜んでる……?
 その意図がわからず、戸惑いしかない。
 彼はスマホをしまって、駅の方を手で示す。

「行こう。たくさん時間はあるから、いっぱい話ができるよ」

「う、うん」

 驚きをそのままに、私は頷いて赤月君と駅へと向かって歩き出した。
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