20年越しのごめんだけじゃ物足りない~幼なじみの執愛が溢れだす
18 セナと聖那
電車に乗り、私たちは翠玉駅へとむかう。
隣りに座る赤月君からはこの間と同じ匂いが漂ってくる。これは香水なのか、柔軟剤の匂いなのか。
香水するような人ではなかったと思うから、そんなことでも八年の空白を感じてしまう。
なんで赤月君はVチューバーなんてしているんだろう。
プラモの事、雑誌への寄稿。赤月君への興味がどんどんわいてくる。
いったい何があったの、赤月君。会社辞めたって言っていたけど、何の仕事をしていたの?
ひとり悶々としていると、赤月君がこちらを見てきた。
「ヒスイちゃんが好きだって言っていたアイドル、つばき坂二十六の動画見たよ」
「え、ほんとに?」
思わず私は思わず赤月君の方へと身体ごと向ける。
「うん。調べたら去年、ヒスイちゃんが働いているお店のイベントに出て……」
「そうなの?」
私は食い気味に言って、つばき坂二十六が去年出たイベントを思い出す。
つばき坂は主に関東地方の小さなイベントに出たりしている。
私がいたお店にも来たことがあるから、ここ、翠玉市のイベントにも来ているかも。
こっちに引っ越して、電車代の事を考えるとイベント参加は厳しいかな、と思っていたけど、こっちに来ることがあれば行くつもりではいる。
直近でイベントはないけど。
赤月君はにっこりと笑って言った。
「うん。来月、ヒスイちゃんのお店で同じイベントあるからきっと来るんじゃないかな」
その言葉を聞き終わる前に、私はスマホを出して検索を始める。
まずお店のホームページを見る。
そこにはイベント情報として、十二月二十一日日曜日にアイドル祭り、というイベントが開催されることだけが載っていた。
でも出演者は地元のアイドルだけしか書いていない。
他多数……って嫌な書き方だ。
つばき坂の公式サイトを見てもまだ十二月のイベント欄には載っていなかった。
くるなら絶対に行きたいけど……十二月の末は忙しいから土日は出勤になるって言われているしな。
仕事と推し活。私の中で天秤が始まる。
いや圧倒的に推し活の方が大事だ。みつきちゃんが見られるなら絶対に行きたい。
なのにまだ公表されていないと、予定が決められない。
歯がゆく思っていると、電車が止まる。
五分なんてあっという間だ。
私と赤月君は電車を降りて、まず駅ビルへと向かう。
駅ビルには私たちが高校生の時によく行ったスタバの他、ファストファッションのお店や駄菓子のお店がある。
今日は駅前を歩こう、と言っただけで特にどこに行くかは決めていなかった。
歩きながら私は赤月君に尋ねた。
「ねえ本当に赤月君あの……V、やってるの?」
辺りが気になってしまい、声がしぼんでしまう。
そんな私の言葉を拾って赤月君は嬉しそうに答えた。
「うん、そうだよ。すごいね、あれしかヒント出さなかったのに見つけ出すなんて」
「いや私のほうが驚きなんだけど。だって、身近にそんなVやっている人がいるなんて思わないしそれに、登録者あんなにいてすごすぎるでしょ。なんで始めたの? いつからやってるの?」
「えーと、働いているときからだから……四年近く前からかな」
言いながら赤月君は指折り数える。
「赤月君、どこで働いていたの?」
「えーと、ハッピープラネットっていう、エンタメ系の総合商社」
「なにそれ、ほんとに?」
ハッピープラネット。
今の売り場で嫌と言うほど名前を目にする会社だ。
通称ハピプラは、おもちゃ、ゲーム、DVDなどを扱ういわゆる問屋さんだ。しかもガチャガチャやゲームの筐体なんかも扱っている。
問屋業だけではなくって、おもちゃの開発製造もしているし、映像作品の製作配給もしている大きな企業らしい。
そんなところで、赤月君が働いていた?
しかもそこをやめてVチューバー?
「いや、なんで仕事辞めたの?」
「あぁ、ハピプラ知ってるんだ。まあそうだよね。あの売り場だったら絶対に目にするよね」
始終嬉しそうに語る赤月君。
「もともと営業にいたんだけど、その間にエンタメがらみで色んな企業や個人と関わって。その時に始めたんだよね、Vチューバー。もともとはプラモ製作の記録を残そうって思って動画を撮っていたんだけど、撮ってるだけじゃあもったいないなって思って公開しようとなったのがきっかけで。顔出しとかは論外だったからアバターを依頼して作ってもらって。それが気がついたらあんなことになってた」
眩しい。赤月君の話がなんだか眩しすぎる。
「あんな巨大企業の営業ってすっごい花形じゃないの? なのにVチューバー?」
「あはは、そうだよね。でもすっごく出張多いんだよ。都内からこっちに日帰りとかすごく多かったし、そんなのオンラインでいいだろっていう会議も、お店とか企業に出向いて話したりして」
「そうなんだ……」
今時リモートで会議が当たり前かと思っていたけれどそうでもないのね。
「それでなんでキャリアすててVチューバー?」
「Vのほうはついで。営業しているときにイベントに関わることが多くって。それでイベント企画の方をやりたくなったんだよ。だから今、個人で会社つくってこっちで商工会とか企業の小さいイベントの企画運営中心に仕事してるんだ」
「……なんかすごすぎてついていけないんだけど、そんな仕事あるんだ……」
イベントって、広報とかが企画して、自力でやるだけかと思っていた。
「あるんだよ、そういう仕事。人を集めて、それを管理運営するのって素人じゃあ難しいんだよ。だからそういうのを手伝うのが俺の仕事」
「そうね、学園祭とはわけが違うもんね……」
言いながら私は中高時代を思い出す。
子供の運営なら人はそこまで厳しい目を向けないけれど、企業や自治体がらみはそうはいかない。
集まる人が多くなれば多くなるほど、統制がとりにくくなるし、トラブルも増える。
私の推しのつばき坂だって、最初は小さいイベントで人集めて、アットホームでわきあいあいって感じだった。でも客が増えてライブのキャパが大きくなってきたら、ときどき変なお客さんがくる、というトラブルを耳にするようになった。
それを思うと素人がイベント運営は確かにきついかも。
「すごいね、赤月君。私が知らない間にいろんなこと、していたんだね」
感心して言うと、赤月君は恥ずかしげな顔になる。
「あはは。気がついたらこうなってた。だから俺、前職時代にヒスイちゃん、見かけたことあるよ」
と、口元に手を当てて笑いながら言った。
「え、うそ」
「ほんとほんと。たまにそっちのお店に行っていたから」
「何で話しかけ……」
そう言いかけてハッとする。
私は仕事中だし、赤月君も仕事。買い物するでもない、他フロアの営業に話しかけられても困るもんね。
「何回か話しかけようか迷ったけど、仕事中に話しかけるのはなーって思って迷っちゃったんだよね」
「全然気が付かなかった……」
でもそのとき話しかけられたとして、私は赤月君とこうしていただろうか。
自信ないな。
今回、私が赤月君の名前に反応したのは、二十年前のプラモの事を思い出したからだ。じゃなければ赤月君の名前を見たとしても、あんな風に名前を口に出すなんてこと、しなかったと思うから。
赤月君は肩をすくめて話を続けた。
「俺も結局話しかけなかったしね。それに、俺の事覚えているかもわかんないから、そんな勇気もなかったし」
「私もそうだな」
それだけ答えて私は下を俯いてしまう。
今だからきっと、私はこうして隣にいられるんだと思う。
私は赤月君の方をちらり、と見る。
赤月君、あの時の事はもう、忘れたのかな。
じゃないと今、こうして笑って隣にいないよね。
赤月君、なんで今私と一緒にいるんだろう。
私は思い切って尋ねた。
「ねえ赤月君、なんでこうして私を誘ってくれるの?」
「幼なじみなんだし、普通でしょ」
と、笑って誤魔化されてしまう。
幼なじみだから。でも本当にそれだけなのかな。
隣りに座る赤月君からはこの間と同じ匂いが漂ってくる。これは香水なのか、柔軟剤の匂いなのか。
香水するような人ではなかったと思うから、そんなことでも八年の空白を感じてしまう。
なんで赤月君はVチューバーなんてしているんだろう。
プラモの事、雑誌への寄稿。赤月君への興味がどんどんわいてくる。
いったい何があったの、赤月君。会社辞めたって言っていたけど、何の仕事をしていたの?
ひとり悶々としていると、赤月君がこちらを見てきた。
「ヒスイちゃんが好きだって言っていたアイドル、つばき坂二十六の動画見たよ」
「え、ほんとに?」
思わず私は思わず赤月君の方へと身体ごと向ける。
「うん。調べたら去年、ヒスイちゃんが働いているお店のイベントに出て……」
「そうなの?」
私は食い気味に言って、つばき坂二十六が去年出たイベントを思い出す。
つばき坂は主に関東地方の小さなイベントに出たりしている。
私がいたお店にも来たことがあるから、ここ、翠玉市のイベントにも来ているかも。
こっちに引っ越して、電車代の事を考えるとイベント参加は厳しいかな、と思っていたけど、こっちに来ることがあれば行くつもりではいる。
直近でイベントはないけど。
赤月君はにっこりと笑って言った。
「うん。来月、ヒスイちゃんのお店で同じイベントあるからきっと来るんじゃないかな」
その言葉を聞き終わる前に、私はスマホを出して検索を始める。
まずお店のホームページを見る。
そこにはイベント情報として、十二月二十一日日曜日にアイドル祭り、というイベントが開催されることだけが載っていた。
でも出演者は地元のアイドルだけしか書いていない。
他多数……って嫌な書き方だ。
つばき坂の公式サイトを見てもまだ十二月のイベント欄には載っていなかった。
くるなら絶対に行きたいけど……十二月の末は忙しいから土日は出勤になるって言われているしな。
仕事と推し活。私の中で天秤が始まる。
いや圧倒的に推し活の方が大事だ。みつきちゃんが見られるなら絶対に行きたい。
なのにまだ公表されていないと、予定が決められない。
歯がゆく思っていると、電車が止まる。
五分なんてあっという間だ。
私と赤月君は電車を降りて、まず駅ビルへと向かう。
駅ビルには私たちが高校生の時によく行ったスタバの他、ファストファッションのお店や駄菓子のお店がある。
今日は駅前を歩こう、と言っただけで特にどこに行くかは決めていなかった。
歩きながら私は赤月君に尋ねた。
「ねえ本当に赤月君あの……V、やってるの?」
辺りが気になってしまい、声がしぼんでしまう。
そんな私の言葉を拾って赤月君は嬉しそうに答えた。
「うん、そうだよ。すごいね、あれしかヒント出さなかったのに見つけ出すなんて」
「いや私のほうが驚きなんだけど。だって、身近にそんなVやっている人がいるなんて思わないしそれに、登録者あんなにいてすごすぎるでしょ。なんで始めたの? いつからやってるの?」
「えーと、働いているときからだから……四年近く前からかな」
言いながら赤月君は指折り数える。
「赤月君、どこで働いていたの?」
「えーと、ハッピープラネットっていう、エンタメ系の総合商社」
「なにそれ、ほんとに?」
ハッピープラネット。
今の売り場で嫌と言うほど名前を目にする会社だ。
通称ハピプラは、おもちゃ、ゲーム、DVDなどを扱ういわゆる問屋さんだ。しかもガチャガチャやゲームの筐体なんかも扱っている。
問屋業だけではなくって、おもちゃの開発製造もしているし、映像作品の製作配給もしている大きな企業らしい。
そんなところで、赤月君が働いていた?
しかもそこをやめてVチューバー?
「いや、なんで仕事辞めたの?」
「あぁ、ハピプラ知ってるんだ。まあそうだよね。あの売り場だったら絶対に目にするよね」
始終嬉しそうに語る赤月君。
「もともと営業にいたんだけど、その間にエンタメがらみで色んな企業や個人と関わって。その時に始めたんだよね、Vチューバー。もともとはプラモ製作の記録を残そうって思って動画を撮っていたんだけど、撮ってるだけじゃあもったいないなって思って公開しようとなったのがきっかけで。顔出しとかは論外だったからアバターを依頼して作ってもらって。それが気がついたらあんなことになってた」
眩しい。赤月君の話がなんだか眩しすぎる。
「あんな巨大企業の営業ってすっごい花形じゃないの? なのにVチューバー?」
「あはは、そうだよね。でもすっごく出張多いんだよ。都内からこっちに日帰りとかすごく多かったし、そんなのオンラインでいいだろっていう会議も、お店とか企業に出向いて話したりして」
「そうなんだ……」
今時リモートで会議が当たり前かと思っていたけれどそうでもないのね。
「それでなんでキャリアすててVチューバー?」
「Vのほうはついで。営業しているときにイベントに関わることが多くって。それでイベント企画の方をやりたくなったんだよ。だから今、個人で会社つくってこっちで商工会とか企業の小さいイベントの企画運営中心に仕事してるんだ」
「……なんかすごすぎてついていけないんだけど、そんな仕事あるんだ……」
イベントって、広報とかが企画して、自力でやるだけかと思っていた。
「あるんだよ、そういう仕事。人を集めて、それを管理運営するのって素人じゃあ難しいんだよ。だからそういうのを手伝うのが俺の仕事」
「そうね、学園祭とはわけが違うもんね……」
言いながら私は中高時代を思い出す。
子供の運営なら人はそこまで厳しい目を向けないけれど、企業や自治体がらみはそうはいかない。
集まる人が多くなれば多くなるほど、統制がとりにくくなるし、トラブルも増える。
私の推しのつばき坂だって、最初は小さいイベントで人集めて、アットホームでわきあいあいって感じだった。でも客が増えてライブのキャパが大きくなってきたら、ときどき変なお客さんがくる、というトラブルを耳にするようになった。
それを思うと素人がイベント運営は確かにきついかも。
「すごいね、赤月君。私が知らない間にいろんなこと、していたんだね」
感心して言うと、赤月君は恥ずかしげな顔になる。
「あはは。気がついたらこうなってた。だから俺、前職時代にヒスイちゃん、見かけたことあるよ」
と、口元に手を当てて笑いながら言った。
「え、うそ」
「ほんとほんと。たまにそっちのお店に行っていたから」
「何で話しかけ……」
そう言いかけてハッとする。
私は仕事中だし、赤月君も仕事。買い物するでもない、他フロアの営業に話しかけられても困るもんね。
「何回か話しかけようか迷ったけど、仕事中に話しかけるのはなーって思って迷っちゃったんだよね」
「全然気が付かなかった……」
でもそのとき話しかけられたとして、私は赤月君とこうしていただろうか。
自信ないな。
今回、私が赤月君の名前に反応したのは、二十年前のプラモの事を思い出したからだ。じゃなければ赤月君の名前を見たとしても、あんな風に名前を口に出すなんてこと、しなかったと思うから。
赤月君は肩をすくめて話を続けた。
「俺も結局話しかけなかったしね。それに、俺の事覚えているかもわかんないから、そんな勇気もなかったし」
「私もそうだな」
それだけ答えて私は下を俯いてしまう。
今だからきっと、私はこうして隣にいられるんだと思う。
私は赤月君の方をちらり、と見る。
赤月君、あの時の事はもう、忘れたのかな。
じゃないと今、こうして笑って隣にいないよね。
赤月君、なんで今私と一緒にいるんだろう。
私は思い切って尋ねた。
「ねえ赤月君、なんでこうして私を誘ってくれるの?」
「幼なじみなんだし、普通でしょ」
と、笑って誤魔化されてしまう。
幼なじみだから。でも本当にそれだけなのかな。