チーターとガレット
「僕が学生だったとき、姉から何度も遊びに来ないかって誘われていたんですけれど、行ったことないんですよね。ちょっと後悔してるんですよ、いつか行こうと思って行かなかったこと。あとひと月で、地球が終わるらしいから」
彼は天気の話でもするように、さらりと言った。
「え、そうなんですか」
千枝には間の抜けた返事しかできなかった。地球が終わる? なぜ突然そんな話が出てくるのかと思ったが、彼は冗談を言っているようには見えない。
「姉の職場ではその話題で持ち切りみたいです。勤勉な人ばかりではないので、仕事に来なくなってしまった人も多いんだとか」
「みんな話を真に受けているっていうことですか?」
これまでも世界中に地球の終わりを予言する人はいたが、もしそんな日が来たら最後の日には何をする? と話の種にするくらいだった。噂に踊らされて日常を手放す人がいないとも言い切れないが、正直あまりピンとこない。
「姉の会社では今、野生動物を見るツアーが大人気らしいですよ。天変地異の前触れをこの目で見たいっていう人たちが世界中から押し寄せているそうです。お客様には大富豪や起業家が多いって聞いて、なるほどなあと思いました。そういうときにわくわくして好奇心が勝ってしまうところが、僕みたいな一般人とは根本的に違うんだなあって」
「何か起こるって、信じてますか?」
「僕ですか?」
彼は顎に手を当てて、考え込むようなそぶりをした。