チーターとガレット
「本当だ、涼しい」
千枝はテーブル席に鞄を降ろして、額に滲んでいた汗にハンカチを当てた。
所狭しと置かれた観葉植物の鉢植えが、エアコンの風に当たって葉を揺らしている。幅広のカウンター席の他には、二人掛けのテーブルが二席のみ。一人で切り盛りすることを想定した、こぢんまりとした店だった。
もしかしたら〈イガラシ〉と中で繋がっているのかもしれないと思っていたが、完全に壁で仕切られている。個性的な一軒家に扉が二つあり、別の店というのは珍しい構造だ。
落ち着きなく店内を見回していると、お冷と一緒に几帳面な文字が並んだメニュー表を差し出された。料理は二種類だ。
『海老と帆立のシーフードクレープ~わさびソース~』
『マッシュルームとパルミジャーノチーズのタルト』
見た瞬間に、身体が空腹を思い出したようだった。文字を眺めているだけでも、胃袋が刺激され、口の中にじわじわと唾液が溜まってくる。
どちらも注文して一つは持ち帰りたいくらいだったが、それを言い出す勇気もなく、散々悩んでマッシュルームとパルミジャーノチーズのタルトを注文した。
彼はキッチンへと向かい、早速食事を作り始めた。
店内には聞き覚えのない言語のラジオ放送が鳴り続けている。それに交じって食材を切る音、冷蔵庫のドアを開け閉めする小気味よい音が店内に響いて、誰かの家のダイニングのテーブルについているような気分だった。
千枝はスマホで〈トゥレトゥール〉の情報を確認した。
地図アプリを開いて現在地を見るが、載っているのは〈イガラシ〉の方だけだった。ウェブ検索で調べてみようとしたが「北美鳥 Traiteur」で検索しても、何も出てこない。テーブルと椅子はグリーンに調和するアンティーク調だが、開店したばかりの新しい店なのかもしれない。