チーターとガレット

「この店、今日が開店初日なんです。メニューが定まっていないどころか、店の看板もできていないんですよ。本当に急だったので」
 懇意にしていた不動産屋から面白い物件があるけど見に行かないかと声をかけられ、いつか店を開こうと思っていたそのいつかが、今になったらしい。

「ここはもともと、〈イガラシ〉のオーナーが友人をもてなすのに使っていたセカンドハウスのような場所なんです。でも最近はレストランだけで手いっぱいで、ほとんど使わなくなっていたみたいで」
 彼はキッチンの奥を指し、このフロアの他にもう一つ部屋があって、そこがバスルーム付きの寝室になっているのだと教えてくれた。

「すぐそこにお店があるのに、わざわざ隣の部屋でもてなすって、なんだか不思議ですよね」
「メニューにないものを、出したかったみたいですよ。お客さんが他にいると、そういう特別なこともできないからって」
 友人たちとは料理を作りながらも、時には自分もテーブルについて食事をしたりと、気楽な楽しみ方をしていたらしい。

「そっか、私、このお店に入ったとき、初めて来た気がしないなって思ったんですけれど。リビングの雰囲気が残っているからなのかも」
「そうなんですよ。壁紙とかお店っぽくないですよね。フローリングの板の雰囲気とか、僕の家のリビングとも似ていまして。これで玄関があって、靴を脱いで上がる店だったら面白かったかなあ、って思いました」
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