チーターとガレット

「こういうタルトもあるんですね」
 スイーツ以外のタルトはキッシュ以外には初めてかもしれない。ナイフを入れても生地が潰れずに、さっくりと切り分けられる。一口で、茸の風味とパルミジャーノのほのかな苦みが口の中に広がった。ほんの少し振りかけられたホワイトペッパーもアクセントになって、かみしめるたびに食材そのものの香りを感じられる。

 キッチンの傍で落ち着かない様子の彼に向かって「おいしいです」と頭を下げる。これまで食べたことがないかんじ、ということを誉め言葉として伝えたかったが、的確な表現が思い浮かばなかった。

「あ、写真撮ればよかった。わたし、お店の宣伝した方がよかったですよね」
「僕はアカウントも持ってないですし、SNSもやらないのでお気遣いなく。たくさんの人に食べてもらえなくても、食べてくれた人がおいしかったなって思ってくれたら、それだけで僕は満足なので」

 めずらしい人だ。今どきはSNSだけで集客する人も多いというのに。
 食後に出されたコーヒーを飲みほして、千枝は席を立った。

「ごちそうさまでした、こんなにおいしいお店ができたなんて嬉しい」
 彼は何度も頭を下げて、ただくすぐったそうに笑っている。

「お店、本当は何時までなんですか?」
「実はまだ、それもちゃんと決めていないんですけれど、月曜日はこのくらいの時間までは開けていると思います。今日は、もうだめかなって思っていたときに来てくださったので、救われたような気持になりました」
 ありがとうございます、と深々とお辞儀された。

「また来ますので」
「もう、ぜひ」
 見送られて店をあとにする。早く家に帰ろうと思っていたのに、結局は遅くなってしまった。
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