隣の席の悪魔【旧版】


西日が、
机をオレンジ色に染めていく。

ページをめくる音。

遠くで鳴くカラス。

静かな図書室。

最近。

放課後は、
ずっとここだった。

机の上に増えていく、
参考書。

暗記帳。

赤い訂正ペン。

気づけば、
“その先”の話ばかりになっていた。

でも。

空くんといるこの時間だけは、
少し落ち着いた。

夏祭りの日。

あの背中に、
しがみついた時みたいに。

空くんの近くにいると、
ちゃんと息ができる気がした。

「……ここ」

空くんが、
私のノートを指差す。

「計算違う」

「え?」

私は慌ててノートを見る。

……ほんとだ。

「なんで分かるの!?」

「見えた」

「怖っ!!」

すると。

ふっ、と。

小さく笑う声。

「空くんって、
先生向いてそう」

「無理」

「なんで?」

「うるさい生徒がいるから」

「偏見!」

「いるだろ、
お前みたいな」

「ひどい!!」

その時。

ふわっと風が吹き込み、
微かに甘い香りがした。

金木犀。

私は窓の外を見る。

夕焼け。

図書室。

空くん。

……あ。

あれから、
もう一年経つんだ。

その時。

空くんが、
ぽつり。

「……星野」

「ん?」

「志望校、
決めたの」

え。

私は少しだけ黙る。

そして。

小さく頷いた。

「うん」

……空くんとは、
違う高校。

夏祭りの日。

“また来ればいいだろ”

そう言った空くんの声を、
ふと思い出す。

私は少し俯きながら言った。

「……もう、
秋だしね」

空くんは、
前を向いたまま。

「そっか」

短い声。

空くんは、
小さく頷くだけだった。

窓の外。

オレンジ色の空が、
少しずつ夜に近づいていく。
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