隣の席の悪魔【旧版】
スタートラインは、
駐輪場の端。

空くんは、
少し離れて立った。

風が吹く。

アスファルトの匂い。

遠くから聞こえる、
部活の声。

「空くん」

「……なに」

「私たち青春してる」

「あほ」

スタートの合図もなく。

突然、
空くんが走り出した。

「あー!ずる!!
待てこの――あてっ」

ジャージを引っ掴んだら、
軽くこづかれた。

気を取り直して、
走り出す。

走るのは好き。

風の音も。

アスファルトを蹴る、
シューズの音も。

心地いい。

そして今日は。

隣に、
空くんがいる。

……それにしても。

速っ。

ぐんぐんペースを上げる空くんに、
私は離れないよう必死でくらいつく。

すると。

空くんが、
ちらっとこっちを見た。

一瞬。

少しだけ。

目を丸くしたみたいだった。

「やるね」

息ひとつ乱れてない声で、
空くんが小さく呟く。

私は思わず笑った。

「でしょ!!!」

「うるさ。
走りながら喋んな」

「空くんこそ!」

「喋ってない」

「今喋った!」

ふっ。

空くんが笑う。

走りながら。

その顔が、
なんかずるかった。
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