隣の席の悪魔【旧版】


夏。

夕方。

セミの声が、
少しずつ減っていく時間。

走り終わる頃には、
空はもう暗くなり始めていた。

「はぁぁ……
疲れたぁ……」

私は校庭のフェンスにもたれながら、
空を見上げる。

その瞬間。

「……わ」

星。

いっぱい。

紫色の空に、
小さな光。

昼間あんなに明るかった空とは、
別の世界みたいだった。

風が吹く。

汗ばんだ肌に、
少しだけ気持ちいい。

「星野」

「ん?」

隣を見る。

空くんも、
夜の空を見上げてた。

珍しい。

ぼーっとしてる。

「空くん、
空見るんだ」

「失礼だな」

「勉強しか興味ないかと思った」

「偏見」

「へへ」

私の小さな笑いのあと。

空くんが、
ぽつりと言った。

「……好きなんだよ」

「え?」

今。

何て――

「星」

空くんは、
上を見たまま言う。

「綺麗じゃん」

あ。

なんだ。

……びっくりした。

「なにその顔」

「別にっ!!」

慌てて目を逸らす。

やばい。

なんか。

変な勘違いした。

すると。

隣から、
小さな声。

「星野の苗字、
お前っぽいな」

「え?」

「星、好きそう」

私は思わず笑った。

「空くんの方が、
空って名前っぽいよ」

沈黙。

風。

遠くで鳴いてる、
虫の声。

「……初めて言われた」

小さく笑う声。

私は隣を見る。

空くん。

少しだけ目を細めてる。

その横顔が、
夜に溶けそうなくらい静かだった。
< 24 / 150 >

この作品をシェア

pagetop