隣の席の悪魔【旧版】


昇降口。

雨の音。

「空くん!!」

追いつく。

空くんが、
立ち止まる。

でも。

振り向かない。

「……なに」

低い声。

「……なんか、
あった?」

「別に」

絶対嘘。

「空くん」

すると。

空くんがぽつりと言った。

「……あいつと帰れば」

……え?

「……なんでよ」

空くんを見る。

耳、
赤い。

「……もしかして」

私は空くんの顔を、
横から覗き込む。

「嫌だった?」

ぴたり。

止まる空気。

空くんが、
ゆっくり振り向く。

「……うざ」

でも。

やっぱり耳は赤い。

「へへ」

「なに」

「べつにー?」

むっとした顔で歩き出す空くん。

「あ、待ってよー!!」

……でも。

空くんの歩く速度は、
いつもより少し遅い。

……待ってくれてる。

私は慌てて走り出した。

その瞬間。

つるっ。

「うわっ!?」

あ、
転ぶ――

そう思った瞬間。

ぐいっ。

腕を引かれる。

気づけば。

空くんが、
すぐ近くにいた。

「……なんでいつも、
そうなんの」

低い声。

心臓が鳴る。

「ご、ごめん……」

空くんは、
少しだけ眉を寄せたまま、
私を見る。

雨の匂い。

制服。

いつもより少し跳ねた髪。

……近い。

その時。

ふと、
思った。

「……空くん」

「なに」

「……背……」

空くんが、
少しだけこっちを見る。

心臓。

うるさい。

でも次の瞬間。

私は慌てて視線を逸らした。

「……なんでもない」

空くんは数秒黙ったまま、
私を見る。

そして。

ふと。

空くんの視線が落ちた。

空くんの手。

私の手首を掴んでる。

熱い。

男の子の手。

心臓は、
相変わらずうるさい。

数秒の沈黙。

夕方の風。

雨の音。

私も、
空くんも。

黙ったまま。

その時。

空くんの指先が、
ほんの少し動いた。

手首を掠める。

なぞるみたいに。

空くんは、
何かを迷うみたいに、
一瞬だけ黙った。

そのあと。

はっとしたように、
ぱっと手を離す。

「………帰る」

え。

空くんは前を向いたまま、
少し早歩きになる。

「え、待って!!」

私は慌てて追いかけた。

でも。

顔が見れない。

今の、
なに。

なんだったの。

すると。

前を向いたまま、
空くんがぽつりと言った。

「……危ないから」

「え?」

「ぼーっと歩くな」

短い声。

少しだけ掠れてた。

私は、
隣に並びながら、
そっと自分の手を見る。

まだ、
少し熱い。

その時。

空くんが、
ちらっとこっちを見る。

「……なんで笑ってんの」

え。

私、
笑ってた?

私は慌てて口元を押さえる。

「笑ってない!!」

「笑ってる」

「空くんのせい!」

むすっと口を尖らせて歩き出す私に、

「濡れる」

空くんはそう言って、
自分の傘を少し寄せた。

傘の下。

私たちの肩は、
少しだけ近かった。
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