隣の席の悪魔【旧版】


静かになる。

空くんは、
小さくため息をついた。

そのまま歩き始める。

「……帰る」

「あ、待って」

私も慌てて立ち上がる。

その瞬間。

机の脚に足を引っ掛けた。

「うわっ」

前に倒れそうになる。

すると。

どん。

立ち止まった空くんの背中にぶつかった。

一年前と同じ。

私も“同志”も、
少し背が伸びたけど。

「あほ」

前を向いたまま、
空くんが言う。

「うるさい……」

私はぶつけた鼻を押さえながら、
俯いた。

その時。

「……つむぎ」

え。

はっとして、
顔を上げる。

心臓。

うるさい。

空くんは相変わらず、
前を向いたまま。

そして。

少しだけ低い声で言った。

「……俺が呼んだら、
嫌なの」

その声が、
やけに真面目で。

私は小さく唇を噛んだ。

そして。

珍しく、
小さい声で言った。

「……違うもん」

空くんが、
少しだけ振り返る。

私は俯いたまま、
ぎゅっと制服を握る。

「星野って呼ぶの、
空くんだけだし」

心臓は、
相変わらずうるさい。

「だから……」

でも。

言葉が止まらない。

「だから……
誰に呼ばれたか、
すぐ分かるから」

沈黙。

冬の夕方。

静かな教室。

目が合った時。

空くんが、
少しだけ目を細めた。

「……変なやつ」

その声は、
いつもより少し柔らかかった。

窓の外。

冬の夕焼けが、
静かに教室を染めていた。
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