隣の席の悪魔【旧版】

渡したい人

今日は、
朝から教室の空気が
なんだかそわそわしていた。

女子たちの机には、
小さい紙袋。

リボン。

甘い匂い。

……そう。

今日は、
バレンタイン。



昼休みになると、
教室のあちこちで
チョコが飛び交っていた。

「はい、義理ー」

私は葛西くんへ、
小袋のお菓子を手渡す。

「雑っ」

葛西くんが笑う。

でも。

ちょっと嬉しそうな葛西くんが面白くて、
私も笑った。

その時。

葛西くんが、
私の机の上を見て目を丸くする。

「つむぎのチョコ、
すごい量だな。
みんなに渡すの?」

私は胸を張って答えた。

「クラスの子にはね!」

すると。

葛西くんが、
にやっと笑う。

「空は?」

え。

私は鞄へ手を入れる。

小さな箱。

昨日、
何回も失敗しながら作ったチョコ。

別に。

変な意味じゃなくて。

ただ。

空くんには、
ちゃんとしたの渡したかっただけ。

「もちろん!
空くんには――」

ガラッ。

教室のドアが開く。

「あ!空くん!」

私はぱっと手を振った。

その瞬間。

「あ、朝比奈くん!」

女子の声。

「これもらって!」
「友チョコだけど!」

「私もあるー!」

空くん。

あっという間に囲まれる。

楽しそうな声。

笑い声。

私は小さく息を止めた。

なんか。

胸の奥が、
ざわっとする。

その感覚をごまかすみたいに。

私は握っていた箱を、
そっと鞄へ戻した。
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