秀麗畏怖極道は甘すぎる
3話 お前のことが
しばらくして会食が終わった。今日はこのまま仕事も終わりだ。
さくは、やっと終わったぁ。早く帰ろ。と息をつくのだった。
駐輪場の脇で煙草を吸っていると店から出てくるさくが目に入った。
煙草を消してバイクを引いてさくに近づく。
「お疲れさん。今日一日あの男の世話焼きで大変やったなぁ。」
嫌味ったらしく言いながら、さくの顔を横から覗き込んだ。
「なぁ、帰り、どっち方面なん?」
なんで絡んでくるんだ。とさくは思いながら
「向こうです。」
と指差した。
さくが指差した方角を確認して、にやりと笑った。
「奇遇やなぁ、同じ方向やわ。」
嘘である。
凛音が住むマンションは反対方向だし、そもそもさくの住所などとっくに調べ上げていた。
だがそんな事実はおくびにも出さず、バイクのエンジンをかけた。
ヘルメットを取り出してさくに放り投げる。
「乗れや。歩いて帰んのか?」
「え。いいです。大丈夫です。お気になさらず。」
ぺこりと凛音に頭を下げ、さっさと歩き出した。
断られた。
しかも頭まで下げて丁寧に拒否された。
凛音の口元がひくりと引き攣る。
……。
数秒、遠ざかっていくさくの小さな背中を見つめていた。
夜道を一人で歩かせるとか、普通に考えて危ないやろが。
いや、なんでそんな心配するんや。凛音は頭をガシガシと掻いた。
バイクを発進させた。
さくとは反対方面の自宅へ、ではなく、
結局、さくのマンションまで来てしまった。
我ながら気持ち悪いと凛音は思ったが、やめる気は毛頭なかった。
やがてさくがマンションに向かって歩いてくるのが見えた。
少し離れた路肩にバイクを停めて、食わぬ顔で歩き出す。
「あれ、こんなとこ住んどったん?めっちゃ近所やわぁ。」
「なんでいるんですか。」
「なんでって、俺の家すぐここやもん。」
と心底不思議そうな顔を作って首を傾げてみせた。
さくの間抜けな顔を見下ろして、堪えきれずに笑いそうになる。
必死に平静を装いながら、自然な動作でさくと並んでマンションの階段を上り始めた。
「さくちゃん、何階?」
「凛音さんもこのマンションなん?」
なぜか同じマンションの階段を登ってくる凛音にさくは少々鬱陶しそうに聞く。
鬱陶しそうな目。それすらそそられる。
「せやで。310号室。」
310号室など存在しない。
小さめマンションなので3階は301〜305までしかない。
「あの…。嘘ですよね。バレてますよ。私になにか用でもあるんですか。」
さくは足を止めて聞く。
凛音は悪びれる様子もなく、
一段、階段を降りてさくと目線を合わせた。
「お前が心配やから来た。って言うたら信じる?」
「信じない。」
即答。間髪入れずの「信じない」。
凛音の喉から低い笑い声が漏れた。
「あはは、正直でよろしい。」
ポケットから片手だけ出して、階段の壁をトンと叩く。
「ほな本当のこと言うたるわ。お前のことが気になってしゃあないねん。」
さらりと言ってのけた。
けれど凛音の色白な頬がほんの僅かに熱を持った事に、薄暗い階段の照明では気付けなかった。本人すらも自覚していなかった。
さくは、やっと終わったぁ。早く帰ろ。と息をつくのだった。
駐輪場の脇で煙草を吸っていると店から出てくるさくが目に入った。
煙草を消してバイクを引いてさくに近づく。
「お疲れさん。今日一日あの男の世話焼きで大変やったなぁ。」
嫌味ったらしく言いながら、さくの顔を横から覗き込んだ。
「なぁ、帰り、どっち方面なん?」
なんで絡んでくるんだ。とさくは思いながら
「向こうです。」
と指差した。
さくが指差した方角を確認して、にやりと笑った。
「奇遇やなぁ、同じ方向やわ。」
嘘である。
凛音が住むマンションは反対方向だし、そもそもさくの住所などとっくに調べ上げていた。
だがそんな事実はおくびにも出さず、バイクのエンジンをかけた。
ヘルメットを取り出してさくに放り投げる。
「乗れや。歩いて帰んのか?」
「え。いいです。大丈夫です。お気になさらず。」
ぺこりと凛音に頭を下げ、さっさと歩き出した。
断られた。
しかも頭まで下げて丁寧に拒否された。
凛音の口元がひくりと引き攣る。
……。
数秒、遠ざかっていくさくの小さな背中を見つめていた。
夜道を一人で歩かせるとか、普通に考えて危ないやろが。
いや、なんでそんな心配するんや。凛音は頭をガシガシと掻いた。
バイクを発進させた。
さくとは反対方面の自宅へ、ではなく、
結局、さくのマンションまで来てしまった。
我ながら気持ち悪いと凛音は思ったが、やめる気は毛頭なかった。
やがてさくがマンションに向かって歩いてくるのが見えた。
少し離れた路肩にバイクを停めて、食わぬ顔で歩き出す。
「あれ、こんなとこ住んどったん?めっちゃ近所やわぁ。」
「なんでいるんですか。」
「なんでって、俺の家すぐここやもん。」
と心底不思議そうな顔を作って首を傾げてみせた。
さくの間抜けな顔を見下ろして、堪えきれずに笑いそうになる。
必死に平静を装いながら、自然な動作でさくと並んでマンションの階段を上り始めた。
「さくちゃん、何階?」
「凛音さんもこのマンションなん?」
なぜか同じマンションの階段を登ってくる凛音にさくは少々鬱陶しそうに聞く。
鬱陶しそうな目。それすらそそられる。
「せやで。310号室。」
310号室など存在しない。
小さめマンションなので3階は301〜305までしかない。
「あの…。嘘ですよね。バレてますよ。私になにか用でもあるんですか。」
さくは足を止めて聞く。
凛音は悪びれる様子もなく、
一段、階段を降りてさくと目線を合わせた。
「お前が心配やから来た。って言うたら信じる?」
「信じない。」
即答。間髪入れずの「信じない」。
凛音の喉から低い笑い声が漏れた。
「あはは、正直でよろしい。」
ポケットから片手だけ出して、階段の壁をトンと叩く。
「ほな本当のこと言うたるわ。お前のことが気になってしゃあないねん。」
さらりと言ってのけた。
けれど凛音の色白な頬がほんの僅かに熱を持った事に、薄暗い階段の照明では気付けなかった。本人すらも自覚していなかった。