秀麗畏怖極道は甘すぎる

4話 ただ俺に構われとけ

「…。」

ヤクザの怖い人。その人に言われた言葉に、私の人生ももう終わりなのかと勝手に悟る。
私、まさか海に沈められるんかなぁ。

黙り込んで遠い目をしているさくを見て、凛音の勘がピンと来た。

「おい。今お前なんか変なこと考えとるやろ。」

顔を近づけて、淡いブルーの目でじろりと睨む。

「沈めたりせえへんわ。なんでそうなんねん。」

さくの思考回路が手に取るように読めた。

ヤクザの男に気に入られる=人生終了。
なるほど、一般人の発想としては至極まっとうだ。

「えっと…海に沈めないとすると…じゃあ、どうしたらいいんでしょう…。」

本気で困惑しているさくの顔が可笑しくて、可愛くて、

「どうもせんでええ。」

さくの頭にぽん、と手を置いた。
乱暴でもなく、優しすぎもしない、不器用な重さ。

「ただ俺に構われとけ。それだけでええから。」

階段に沈黙が落ちた。

「構われとけ」。それは凛音なりの歩み寄りだった。

頭に置いた手の下のさくの体温がじんわりと伝わってきて、凛音の指先に熱を帯びた。

「…よくわかんないけど、わかりました。じゃあ、私帰るので。お疲れ様でした。」

手があっさり振り払われた、わけではない。
自然に離れただけだ。

なのに喪失感が凄まじい。

凛音は顔に薄く笑みを貼り付けたまま、軽く手を振った。

「おう、お疲れ。」

ドアが閉まった音を確認しても、凛音はその場を動かなかった。

「わかりました」と言った。あの言葉は本物か社交辞令か。
どちらにせよ、繋がりはできた。「わかりました」は「わかりました」。つまり、拒絶ではない。

ゆっくりと階段を降りながら、
同じ方面に引っ越そかな。そう頭によぎる。

夜風が白銀色の髪を揺らす。バイクに跨がってエンジンをかけた。

「……帰るか。」

凛音の機嫌は悪くなかった。「わかりました」。たったそれだけを何度も脳内で反復しながら、夜の街を駆け抜けた。

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