秀麗畏怖極道は甘すぎる
5話 強くて怖い人
朝から事務所は慌ただしかった。
重厚感あふれる事務所の自室、若頭部屋で、凛音はいつものように気だるげな表情を浮かべながらソファに身を預けていた。
スーツの下に鍛え上げられたしなやかな肉体を隠し、両腕を広げて背もたれにもたれかかり、ぼんやりと天井を見上げている。
一方、さくは会議の資料配りに駆り出されていた。
各部屋を回り、書類を渡していく。幹部、若頭補佐、そして凛音の番が来た。
ドアを開けたさくと目が合った瞬間、「わかりました」がフラッシュバックした。
「ん。ご苦労さん。」
資料を受け取る際、
指先をわざとさくの手に触れさせた。
…今わざと触っただろ。というような目をさくはした。
そんな目で見てくるのが面白くて仕方がない。
「なんやその顔。」
と軽く笑って資料に視線を落とした。ページをめくる振りをしながら口だけ動かす。
「あの約束、覚えとる?」
その問いにさくは数秒考える。
約束…?なんかしたっけ…。
あ、構われとけばいいみたいなやつ。
そして、
「はい」
とだけ答えた。
たった一言。素っ気ない返事なのに、凛音の胸の奥がじわりと熱くなった。
「ええ子やな。」
その時、廊下からドタドタと足音が響いて「凛音さん失礼します。」と若い衆が部屋のドアを開けた。
「敵対連中が正門前に来とります。5人。」
空気が変わった。淡いブルーの目がすうっと冷たくなる。猟奇的な光が宿った。
「へぇ。」
ゆらりと立ち上がり、
「ちょうど退屈しとったとこやわ。」
凛音が事務所を出て正門前に行く。
1人で5人をあっという間に潰していく凛音の姿をさくは窓越しに眺めていた。
「ほんとに強くて怖い人やん。」
ぽつりと小さく独り言を呟いた。
正門前の光景は無残だった。
アスファルトに転がる男たち。その中心に立つ凛音だけが息一つ乱していない。
拳に付いた血を無造作にズボンで拭い、倒れた一人の髪を鷲掴みにして顔を持ち上げる。
「誰の許可もろてシマ荒らしとんねん。なぁ。」
男が何か答えようとした瞬間、凛音の膝が容赦なく顎を打ち抜いた。鈍い音。白目を剥いて男は崩れ落ちた。
凛音は顔を上げて、ふと、二階の窓にさくの影を見つけた。
目が合う。
凛音の表情が一瞬で切り替わった。
まるで子供が好きな子に手を振るみたいに、血のついた手をひらりと振る。
同じようにさくもひらひらと振り返した。
…手、振り返してくれた。凛音の心臓が跳ねた。
あいつ、俺を見とったよな。見ててくれたよな。
凛音の足取りが軽くなった。
重厚感あふれる事務所の自室、若頭部屋で、凛音はいつものように気だるげな表情を浮かべながらソファに身を預けていた。
スーツの下に鍛え上げられたしなやかな肉体を隠し、両腕を広げて背もたれにもたれかかり、ぼんやりと天井を見上げている。
一方、さくは会議の資料配りに駆り出されていた。
各部屋を回り、書類を渡していく。幹部、若頭補佐、そして凛音の番が来た。
ドアを開けたさくと目が合った瞬間、「わかりました」がフラッシュバックした。
「ん。ご苦労さん。」
資料を受け取る際、
指先をわざとさくの手に触れさせた。
…今わざと触っただろ。というような目をさくはした。
そんな目で見てくるのが面白くて仕方がない。
「なんやその顔。」
と軽く笑って資料に視線を落とした。ページをめくる振りをしながら口だけ動かす。
「あの約束、覚えとる?」
その問いにさくは数秒考える。
約束…?なんかしたっけ…。
あ、構われとけばいいみたいなやつ。
そして、
「はい」
とだけ答えた。
たった一言。素っ気ない返事なのに、凛音の胸の奥がじわりと熱くなった。
「ええ子やな。」
その時、廊下からドタドタと足音が響いて「凛音さん失礼します。」と若い衆が部屋のドアを開けた。
「敵対連中が正門前に来とります。5人。」
空気が変わった。淡いブルーの目がすうっと冷たくなる。猟奇的な光が宿った。
「へぇ。」
ゆらりと立ち上がり、
「ちょうど退屈しとったとこやわ。」
凛音が事務所を出て正門前に行く。
1人で5人をあっという間に潰していく凛音の姿をさくは窓越しに眺めていた。
「ほんとに強くて怖い人やん。」
ぽつりと小さく独り言を呟いた。
正門前の光景は無残だった。
アスファルトに転がる男たち。その中心に立つ凛音だけが息一つ乱していない。
拳に付いた血を無造作にズボンで拭い、倒れた一人の髪を鷲掴みにして顔を持ち上げる。
「誰の許可もろてシマ荒らしとんねん。なぁ。」
男が何か答えようとした瞬間、凛音の膝が容赦なく顎を打ち抜いた。鈍い音。白目を剥いて男は崩れ落ちた。
凛音は顔を上げて、ふと、二階の窓にさくの影を見つけた。
目が合う。
凛音の表情が一瞬で切り替わった。
まるで子供が好きな子に手を振るみたいに、血のついた手をひらりと振る。
同じようにさくもひらひらと振り返した。
…手、振り返してくれた。凛音の心臓が跳ねた。
あいつ、俺を見とったよな。見ててくれたよな。
凛音の足取りが軽くなった。